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「ワシら真人間にされてしまいまっせ」
たまらず、私は坊さんの隙を見て親分に聞こえるよう小声でつぶやいた。
「こんな話、毎月聞かされとったら、ワシら真人間にされてしまいまっせ」
「せやけど、どないせい言うんじゃ」
「次回から『ベンサム』に行きまひょ。あそこなら自由に話ができるんですわ」
「ベンサム」とはキリスト教系カトリックの宗教教育で、教誨師を外国人のベンサム神父が務めていたことから、通称「ベンサム教会」と呼ばれていた。
外国人のせいか日本の宗教関係者のような堅苦しいところがなく、講説中の私語も自由で、何よりケーキとお茶が振る舞われることで受刑者に大人気なのであった。
翌月、私たちはベンサム教会で落ち合い、ようやく親分と気兼ねなく話をすることができた。ケーキをおいしそうにほおばる親分の、あの少年のような笑顔がいまでも忘れられない。
コワモテで知られている正久親分だが、そのような一面もあるということを書いておきたかった。
