成田 労働は時間を差し出し、苦痛と退屈を引き受ける代わりにお金をもらうことだ、という見方がありますね。賃労働が確立して支配した近代的な考え方です。ただ、現実には働くことで得られるアイデンティティや生きがいもあるわけで。
室伏 恐らく労働に対するモチベーションの根底を変えていかないといけないんでしょうね。今、働き方改革が言われていますが、スポーツ的な発想が貢献できることもあるのかなと思うんです。どうですか。
体育における「個別最適化」
成田 今の働き方改革って「苦痛を引き受ける権利」の禁止という面もありますよね。ただ私は、働くことも含め、人が生きることは他人を傷つけ自分が傷つくことと裏表だとも思うんです。苦痛に身を晒すことで生の充実と限界を探る……そのロールモデルが肉体と精神をギリギリまで追い込むスポーツなのかも、と。
室伏 面白い。スポーツを通じた心の持ち方は、われわれがしっかり取り組むべきところですね。
成田 室伏さんのご研究のような運動の効果の科学的な検証は、今の体育教育のカリキュラムに反映されているのでしょうか。
室伏 面白い質問ですね。そこはちゃんとしなきゃいけないと思います。ただ運動するだけじゃなくて、自分で運動機能を測ることで自分の体を知る機会にもなりますからね。
成田 室伏メソッドが面白いのは、体育の個別最適化になっている点です。今、教育全体が個別最適化の時代ですよね。個々の理解度に合わせて教材や課題を変えるのが普通になりました。一人ひとり肉体も体力も違うわけですから、体育も個別最適化すべきだと思うんです。
室伏 みんなでラジオ体操をやるだけじゃなくてね。
成田 さらに運動や健康って一生を左右するのに、普通の人が体育の授業を受けるのは体への危機感が薄い10代だけ。本当は中高年こそ体育教育が必要なんじゃないかと。
(構成 伊藤秀倫)
※本記事の全文(約7500字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(室伏広治×成田悠輔「日本人選手が強くなると『ルール変更』の噂、ありますよね?」)。
・「ゆとり教育」が質を上げた
・スポーツビジネスの功罪
・引退後に破産するNBA選手
・金メダリストvs.経済学者
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第4回 横尾忠則 僕は病院が好き。自分を知る「哲学」になるから 前編・後編
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