経済学者・成田悠輔さんがゲストと「聞かれちゃいけない話」をする連載。今回のゲストは、室伏広治さんです。

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経済学とスポーツ

 成田 この本(『室伏広治と考える運動器機能の評価と改善』)を読んで、室伏さんのご研究と、社会科学や経済学がやっていることは似てるな、と。まずXのYへの影響やインパクトを測ろうとしている点。政治制度の経済成長への影響だったり、室伏体操の運動機能への影響だったり。そしてどちらも対象が超絶複雑で個体差が大きいので、簡単にモデル化や理論化しづらい。

 室伏 そうですね。

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室伏広治氏(左)と成田悠輔氏 ©文藝春秋

 成田 そこで室伏さんはまず自分の体の機能を自分で気軽に測って点数化する方法を示す。その上で点数が残念な機能を伸ばす気軽な運動メソッドを提案されています。そういう個人の肉体への介入が、その後のパフォーマンスにどう影響を与えるかの検証までされている。分析や論証の流れは、自分がやっている研究と近いのが意外で面白かったです。

 室伏 我々もスポーツが社会にどういうインパクトを与えるかを見ているので、そこは近いですね。

 成田 同じ手法で、運動が経済に与える影響を測ることもできそうですよね。運動が個人の労働生産性や企業業績に与える影響とか。幸福度や充実感への影響も大きそうです。

 室伏 運動って「病気にならない健康な体を作る」という効果が強調されがちなんですが、私は、そこはむしろ副次的なものだと思っているんです。本当は、運動することによって生きる姿勢そのものがアクティブに、ポジティブになっていくことが一番大きな効果なんですよね。

©文藝春秋

 成田 心への効果ですね。

 室伏 逆に成田さんに伺いたかったのは、まさに労働の問題なんです。スポーツって、わざわざツルツル滑る氷の上を走ったり、断崖絶壁に登ったり、見ようによっては、あえて困難な状況に身をおいて楽しむみたいなところがありますよね。人間ってチャレンジングなことをすると元気になるところがあると思うんですが、労働は困難を楽しむとならないのはなぜなんだろう、と。