文春オンライン

自衛隊「イラク日報」――ブラック職場が生んだ意味なさぬ黒塗り

370日分、14141ページにも及ぶ「日報」を読み込んで判明した問題点

2018/07/23
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 このように同じ内容であっても、黒塗りのポリシーはまるで一致せず、黒塗りの意味をなしていないものもあった。そしてそもそも、その日にイラク派遣の自衛隊員が、どこに何人いるかは毎日「人員現況」として日報に載っているのだ。これでは名前以外を隠す意味が存在しない。

2006年2月26日の「イラク復興支援群日報」より

 上の表を見れば、バスラには4名いるとすぐに分かる。毎日どこに何人いるか明らかにしているのに、敢えて人数を隠す必要はあるのだろうか。

何を明らかにし、何を隠すのか

 ここまでくると、そもそも自衛隊はなにを隠したいのか、という疑問まで浮かんでくる。おそらく、黒塗りをした自衛隊員も、それを全く理解していないままやっているのかもしれない。

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 このような悲惨な推測を裏付ける報道がある。4月16日の産経ニュースは次のように伝えている。

〈防衛省は16日に陸上自衛隊イラク派遣部隊の日報を開示したが、一連の作業は今月2日、小野寺五典防衛相が日報の発見を明らかにし「4月中旬」の開示を指示したときから始まった。発見されたイラク日報は計400日以上、約1万5千ページに及ぶ膨大な量。朝鮮半島やシリア情勢が緊迫する中で、日報問題への対応で多くの人員と時間を使うことになった。

 作業を担当したのは約50人の統合幕僚監部参事官室。そこだけでは対応しきれず、内部部局の防衛政策局運用政策課などからも応援が寄せられた。〉

産経新聞「日報対応で本来業務『まひ』 情報公開請求の弊害あらわ」

 

 筆者も過去、防衛省・自衛隊に何度か情報公開請求を行っているが、一つの文書でも黒塗り処理とチェックのために開示に数ヶ月かかることは珍しくないことだった。それを2週間で約1万5千ページを完了させろというのだから、相当の作業量になっただろう。

イラクでの復興支援活動から帰還、愛知県の航空自衛隊小牧基地で出迎えられる派遣隊員 ©共同通信社

 急な人員増は致し方ないかもしれないが、人海戦術で慣れない人員を入れたために肝心の秘匿ポリシーが共有されておらず、チェックもおざなりになっていたと思われる。文脈や日報全体に出ている情報を考慮せず、機械的に特定の単語に黒塗りしていったのかもしれない。

 だが、情報の扱いに関しては、結果が何よりも重要だ。せめて、「何を隠すか」くらいは共有して欲しかったし、人数を隠しているのに人数分の区切りを入れて黒塗りするような仕事は、ちょっと考えれば意味がないと分かるレベルだ。が、日報の黒塗りのミスの多さを見れば、その「ちょっと考える」余裕すらない状況だったのかもしれないが……。