文春オンライン

北朝鮮を交渉のテーブルにつかせた米軍「電磁パルス兵器」の威力

軍事アナリストが読み解く「リアリズム」

2018/06/22

 6月12日、シンガポール・セントーサ島のホテル・カペラで歴史的な米朝首脳会談が開かれ、朝鮮半島情勢は新たな一歩を踏み出すことになった。

 両首脳は、トランプ大統領は北朝鮮の体制を保証し、金正恩朝鮮労働党委員長は朝鮮半島の完全な非核化を約束するなど4項目に合意し、ひとまず朝鮮半島の緊張状態は回避されたかに見える。しかし、喜んでばかりはいられない。今後、同じような安全保障上の問題が生じた時、日本がどのようにそれを克服していくことができるか、総括しておく必要があるからだ。

歴史的会談の背景を読み解くと…… ©getty

あえてリスクを取って内外の報道陣の前に露出した理由

 今回の米朝首脳会談に向けて、北朝鮮は2回、大きく舵を切っている。

ADVERTISEMENT

 1回目は昨年4月13日で、金委員長は虚を衝いた行動に出た。ピョンヤン新都心の完工式に登場し、経済制裁の中でも推進してきた並進路線のうちの経済建設が、順調に進んでいることを内外にアピールしたのだ。金委員長暗殺を意味する「斬首作戦」が囁かれる中、あえてリスクを取って内外の報道陣の前に露出した姿には、米国との対話路線を模索する決意が表れていた。

 2日後の4月15日は祖父・金日成主席の105回目の誕生日に当たるが、金委員長は例年4月25日に実施する建軍記念日の軍事パレードを繰り上げ、並進路線の一方の柱である核兵器と弾道ミサイルの開発による抑止力を強調する演出をみせた。以上を並進路線の二本柱とみなすなら、米国とのチキンゲームにおいて巧みに着地していく第一歩が記されたといってよいだろう。

金正男氏の殺害によって権力基盤の構築が終了した

 昨年2月12日、北朝鮮は固体燃料式中距離弾道ミサイル北極星2型の発射実験に成功、米国の反応を探る動きに出た。これは、北朝鮮が近代的な弾道ミサイルの技術を一定水準で習得したことを誇示する実験だった。翌2月13日にはマレーシアのクアラルンプール国際空港で、異母兄・金正男氏を最も強力とされる化学剤VXによって殺害し、最高指導者に就任してから続けてきた粛清という恐怖政治による権力基盤の構築が終了したと分析された。

 続いて北朝鮮は3月6日、4発の準中距離弾道ミサイル・スカッドERを日本の排他的経済水域を含む海域に正確に着弾させ、金委員長の目の前に置かれた地図には長崎県佐世保と山口県岩国の在日米軍基地が射程圏内にあることを示す半径1000kmの円が描かれていた。