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電磁パルスによって情報インフラを直撃

 それまで北朝鮮は、南北軍事境界線から50km圏内にあるソウルの巨大な人口を人質として、米軍による軍事攻撃を抑止する態勢をとってきた。300門から400門と言われる大規模な砲兵部隊を展開し、長射程の多連装ロケットなどでソウルに照準を合わせてきた。もし米軍が軍事攻撃に踏み切れば、ソウルを一斉射撃し、数万人規模の死者が出ることを予測させることで、軍事攻撃を食い止めてきたのである。

 1994年の核危機の時、北朝鮮代表団が「ソウルは火の海だ」と叫んだ光景は今も記憶に生々しいが、マティス国防長官は北朝鮮のソウル人質戦略を不可能にするというのだ。

 マティス発言で最も可能性が高いのは、非核型の電磁パルス兵器CHAMPではないかと思われる。これは既に2012年頃に実験の様子が公開されていたものだが、新型の巡航ミサイルJASSM-ERに搭載し、北朝鮮側の指揮統制通信システムの上を飛行させ、そこから電磁パルスによって情報インフラを直撃し、無力化してしまうのである。そうなると、いかに大規模な砲兵部隊が展開していようと散発的な射撃になり、ソウルの被害は限定される。このCHAMPは既に米軍が実戦配備していると見られ、人間の殺傷や建物などの破壊を伴わないことから、日本の防衛省も昨年6月、研究開発の開始を発表している。

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B-1爆撃機から放たれるJASSM-ER ©U.S. Air Force

金委員長を支える欧米諸国への研修組

 そういう中で、北朝鮮が理性的とみられるのは、核拡散防止条約(NPT)の外側で独自に核兵器開発を進め、いまや非同盟諸国のリーダーとして平和国家のイメージすらまとい、21世紀経済の推進力として期待されるに至ったインドを一種のビジネスモデルとして、世界が核保有国として認めるまで核兵器と弾道ミサイルの開発を進めるという、緻密に計算された戦略的な歩みによる。

 その金委員長の戦略的指導力を支えているのが、年間1000人に上ると言われる欧米諸国への研修組だ。知的エリートを主に米国の大学などに派遣して学ばせており、例えばニューヨーク州中部のシラキュース大学の場合、2002年からITと経済政策の研修を2014年に中断するまで続けてきた。この知的エリート集団が課題ごとにタスクグループを作り、北朝鮮の戦略的な歩みを支えてきたのである。

 韓国の将軍はかつて私に「南北朝鮮は小国であるが故に、とことんまで無い知恵を絞り出さなければ生き残れない」と述べたが、頭脳を振り絞ることで世界屈指の経済的成功を収めるに至ったシンガポールを目の当たりにして、金委員長が今後どのような歩みを進めるのか注目していきたいと思う。拉致問題を抱える日本の相手は、このような怪物とも言うべき北朝鮮の若き指導者なのだ。

日米同盟のリアリズム (文春新書)

小川 和久(著)

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