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北朝鮮を交渉のテーブルにつかせた米軍「電磁パルス兵器」の威力

軍事アナリストが読み解く「リアリズム」

2018/06/22

北朝鮮は米国とのチキンゲームを巧みに乗り切った

 これに対して米国は4月7日、化学兵器サリンを使って民間人を殺傷したシリアのアサド政権の空軍基地をトマホーク巡航ミサイル59発で攻撃し、シリア、イラン、北朝鮮、そしてシリアの後ろ盾となっているロシアに強力なメッセージを送った。4月13日にはアフガニスタンのISIL(イスラム国)の地下陣地に対して「全ての爆弾の母」と呼ばれるMOABという破壊力が通常兵器で最大の爆弾を投下、96人の戦闘員を殺害し、シンガポール沖を航行中の空母カール・ビンソンの打撃群に対しても、北朝鮮近海への急行を命じた。

通常兵器としては最強の威力をもつ「全ての爆弾の母」 ©U.S. Air Force

 その後、北朝鮮は様々な強硬姿勢を示したかに見えたが、実は、9月の段階で米国のマティス国防長官がいみじくも語ったように、「米国が軍事攻撃をしないで済むギリギリのところで挑発行為を繰り返している」ことに止まったのである。

小川和久著『日米同盟のリアリズム』 (文春新書)

 いかに金委員長が米国との対話を望んだとしても、そのまま話し合いのテーブルについてしまったら、米国の軍事的圧力に圧倒された結果とみなされ、政権基盤が揺らぐ可能性がある。しかし、米国に軍事攻撃されないギリギリのところで強硬姿勢を示し続ければ、米国との対話のテーブルについた時にも「我々の断固たる決意の前に米国が話し合いを望んだ」と強弁することができる。

 このような北朝鮮の姿勢の変化については、昨年7月に出版した拙著『日米同盟のリアリズム』(文春新書)に詳しいが、その後も拙著で示唆した通り、北朝鮮は米国とのチキンゲームを巧みに乗り切り、米朝首脳会談へと着地していった。

昨年9月下旬から2ヵ月半にわたる沈黙

 2回目の転機は、昨年9月18日のマティス国防長官の発言によるものだ。

 北朝鮮はたしかに、形の上では7月4日と7月28日に大陸間弾道ミサイル火星14を発射し、11月29日には射程13000km、米国東海岸を射程圏内に収めるとみられる火星15を実験、大陸間弾道ミサイルの保有を宣言できる状態に到達した。その間、9月3日には過去最大規模の水爆実験を行い、これまた核保有国の立場を誇示できる段階に達することになった。

マティス国防長官 ©U.S. Army

 このような北朝鮮の歩みの中で注目されるのは、昨年9月下旬から2ヵ月半にわたる沈黙である。この時期、北朝鮮は弾道ミサイルの発射実験と核実験を一度も行わず、金委員長も軍関係の視察は一切行わない徹底ぶりだった。視察は畑や果樹園や養豚場、トラクター工場など民需関係一本槍で、経済建設を進める姿勢を、特に米国にアピールする姿が際立つことになった。

 この沈黙の後、北朝鮮は11月29日に大陸間弾道ミサイル火星15を発射するのだが、これはその直前にトランプ大統領が北朝鮮をテロ支援国家に再指定したためで、対抗して強硬姿勢を示さなければ国内世論を納得させられなかったのだと思われる。

 9月18日のマティス国防長官の発言は「ソウルに被害が出ない形で北朝鮮を軍事攻撃できる方法がある」という趣旨だった。