2003年、福岡で発生した一家4人殺害事件。無惨に殺され海中から引き上げられた遺体、中国人留学生による犯行、国際捜査協力など、多くの謎と衝撃に包まれた事件の捜査指揮を執った元福岡県警特捜班長のQさん(77)に、事件から22年後の今、当時を振り返ってもらった。
「最初はヤクザ関係による犯行じゃないか」暴力団説から中国人留学生へ
事件発生当初、捜査本部はどのような見立てで捜査を進めたのか。Qさんは「最初はヤクザ関係……暴力団関係による犯行じゃないか」と推測していたと振り返る。その理由として「家の前に黒っぽい大型の車が停まっとったっちゅうことだった」「被害者のAさんの車が久留米で発見された」「被害者には大麻栽培の話があった」などの情報から、暴力団絡みの事件と見られていたという。
しかし捜査の転機は、遺体に付けられていた手錠とダンベルの販売ルートだった。量販店の防犯カメラには日本人とは思えない人物が映っており、中国人留学生の王亮(当時21歳)の特定につながった。さらに同居人の楊寧(同23歳)も浮上したが、2人はすでに中国へ出国していた。
「王の名前で借りられたアパートには、防犯カメラに写っていたのと同じTシャツが残されていました」とQさんは語る。
3人目の魏巍(同23歳)の逮捕は偶然の産物だった。「魏巍は偶然ですよ。殴られた女性の写真が所轄に残っとったんですよ」とQさん。魏は出国直前に知人女性を殴った傷害容疑で逮捕されたが、当初は王や楊と交流がある人物というだけで、Aさん一家殺害への関与は不明だった。「あと何時間かで飛行機に乗るところをキャンセルさせたんです。際どかったですね。そのまま乗って行かれとったら終わりやったですね」
決定的な証拠は、魏が住んでいたマンションへの家宅捜索で見つかった。「非常階段の扉を固定するために置かれた、箱型の鉄製重し」が、被害者の遺体に付けられていたものと同一だったのだ。Qさんは当時を思い出し、「あらーっ、これは! っちゅう感じですよ」と笑った。
中国当局との捜査共助も異例の進展を見せた。「けっこう協力的やったですね。事件そのものは、割れたらけっこう早かったですもんね」とQさんは話す。結果として王亮と楊寧は中国で逮捕され、日中双方の捜査員が互いの国を行き来して情報交換する国際捜査へと発展していった。
事件の動機について多くの憶測が飛び交ったが、Qさんは黒幕説や暴力団との繋がりを否定。「これはですね、短絡的というか、ベンツがあるから、おカネがあるだろうということでやっとるじゃないですか。日本人じゃ考えられんことをですね、たかがおカネの為にやっとるからね」と語った。
22年を経た今も謎は残るが、Qさんの言葉からは徹底した捜査の跡が垣間見える。「普通日本人じゃ考えられんことをやっとるからね。普通なら、こう、段取りがあるんですけどね。バンバンバンとやっとるから」
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