米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏は、「負け戦をしない男」として知られる。その経営哲学の一端と、日本市場での戦略について、ベテラン経済ジャーナリスト・大西康之氏がレポートをする。
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ベゾスの勝利の方程式
ベゾス氏は祖業のEC(=インターネット・ショッピング)でも「負けない戦い」を続けてきた。アマゾンは「世界中でEC事業を展開している」と思われがちだが、意外なことに現時点でEC事業を展開しているのは20カ国。1995年に米国で創業した後、2010年代に入るまでに進出したのは英国、ドイツ(1998年)、フランス、日本(2000年)、カナダ(2002年)、中国(2004年)の6カ国だけだ。
2010年代にインド、メキシコなど8カ国、2020年代にスウェーデン、ポーランドなど5カ国に進出して現在の姿になった。世界進出の歩みが遅いのは、ベゾス氏が「勝てる市場にしか進出しない」からだ。
創業の地、米国のEC市場では38%のシェアを持ち、リアル小売の巨人ウォルマート(シェア約7%)やアップル(約4%)を大きく引き離している。ドイツでは63%のシェアを持ち、2位のeBay(約6%)、3位のOtto(約4%)を圧倒している。
アマゾンが進出している先進国のEC市場の構造には「負け戦をしない」ベゾス氏の性格がよく表れている。ベゾス氏は勝てる市場に進出し、そこで圧倒的に勝つ。その結果、アマゾンが進出した国では「アマゾンによる圧倒的支配」が確立される。
逆に「勝てない」と判断すれば速やかに撤退する。2004年に進出した中国では、個人間取引に強いアリババ・グループの「淘宝網(タオバオワン)」や、広大な国土にいち早く物流網を築いた京東(ジンドン)商城(JD.com)の牙城が崩せず、2019年に越境ECサービスを除くEC事業から撤退した。
ネットの黎明期にはドイツや英国でも自国のECがそれなりの勢力を持っていた。しかし一度アマゾンが出てくると、圧倒的な物流投資と購買力で地場ECは殲滅され「アマゾン一強」の状態が生み出される。逆に中国のように地場に勝てない市場からは、さっさと手を引いてしまう。「負け戦」をしない合理主義が、EC市場におけるアマゾンの圧倒的な収益力を支えている。
