作品前半の時代設定は、1990年代の日本。同性同士の恋愛を含め、いまとは感覚が異なる部分がある。いわばもっと野蛮だった時代の空気が、作中では克明に描かれている。
「書いていくとこの30年で、本当にいろんなことが変化しているものだと気づきました。同性との恋愛への偏見など、モラルやデリカシーにかかわることは、すこしずつ着実に進展しているものですね。ただこのところは国際的にも国内でも、マイノリティに対して排他的な風潮があったりと、揺り戻しみたいなことが起きているようで、先行きが不安定な世の中になってきたことも感じます」
10代の頃に抱いた「若さをお金に変えなければ」という焦り
17歳で作家としてデビュー。19歳の時に『蹴りたい背中』で芥川賞を受賞し、「早熟な才能」と注目されてきた。だが、“若さの価値”についても、捉え方がずいぶん変わったという。
「私が10代だった平成のころは、“女子高生ブーム”みたいなのがあって。その時期こそ女としていちばん輝いているときで、20歳までにやりたいことを全部やらなければいけない、そうして20歳になればギャルはもう卒業して、こんどはきれいなお姉さんになりたいと願う……。そんな価値観に、皆が感化されているようなところがありました。
私もやっぱり時代の影響を受けて、いちばんいい時期のあいだに、『自分の若さをお金に変えなくちゃ』と、変な焦りを募らせていたものでした。自分の場合はその焦りが、小説を書こうという気持ちにつながっていって、デビューしいまの仕事につながることとなり、結果としてはよかったのですけど。
ただ、あの頃の自分の考えは間違いだったとはっきり分かった気がします。人に消費されなければ価値がないという考えはむなしいし、もったいない。自分の子どもには、同じような焦りを感じてほしくないと思いますね」
撮影=深野未季/文藝春秋
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