「集大成的恋愛小説」。そう銘打たれているのが、綿矢りささんの最新刊『激しく煌めく短い命』だ。物語をたどれば、自分のなかに眠っていた初恋や大恋愛の記憶が、ありありと蘇ってくる。本作はどのようにして成ったのか。作者である綿矢さんの話に、しばし耳を傾けてみよう。

 2001年に作家デビュー、19歳で芥川賞を受賞した綿矢さんが、過去を振り返って思うこととは?(全2回の1回目/続きを読む)

綿矢りささん ©深野未季/文藝春秋

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過去最長となった「集大成的恋愛小説」

 恋は、始まりでも終わりでもない。

 ちょうど人生の真ん中にある。

 それを教えてくれたのは、あなたです。(『激しく煌めく短い命』より)

『激しく煌めく短い命』は600ページを超える長編となった。綿矢りさ作品のなかでは過去最長だ。いまなぜこれほどの大作を書こうと思ったのか。

「最初から長編にしようと決めていたわけではなくて、書いているうちに、気づけばずいぶん長いものになっていました。今回書いてみたかったのは、子どものころに出会ったふたりが大人になって出会い直したら、お互いをどう思うのかということ。子ども時代と大人時代、異なるふたつの物語を書くのだから、ある程度の長さになるだろうとは予想していたのですが」

 

 京都の中学校で出会った悠木久乃と朱村綸は、互いに惹かれ合い距離を縮めていくが、あるきっかけで心は離ればなれに。十数年後、32歳になったふたりは東京で再会することとなり、新たに関係を築き上げていくこととなる……。

綿矢さんの地元・京都が舞台、女性同士の恋愛を描く

「長いものを書いてよかったのは、舞台が地元の京都だったり、女性同士が恋愛したりと、これまで扱ってきたモチーフをあれこれ内包できたことです。自分の書いてきたことを詰め込んであるという意味では、集大成的な作品と言っていいのかもしれません。通っていた中学校をモデルにしていたり、初めて上京したときの思い出を素材にしたりと、記憶を掘り起こして書いたシーンも多いので、読み返すと懐かしい気持ちになります。

 長編小説の楽しみどころは、もちろん人によってそれぞれ異なるでしょうけど、ひとつには作品内に流れる時間にすっかり身を浸せるところにあるんじゃないでしょうか。先日読者の方からこの作品について、『読みながら自分の過去のことをたくさん思い出した』という感想をいただけてうれしかったです。小説のなかにうまく時間を流すことができているとしたらよかった」