「書き飛ばせない」と感じた学生時代のこと

『激しく煌めく短い命』の作中では、悠々とした時間の流れを感じられるのはもちろんのこと、時間が伸び縮みするところまで表現してある。

 小さいころの一日は時間がゆっくり進んだものだけれど、年齢を重ねるごとに、信じられぬ早さで時は過ぎ去ると私たちは知っている。あの不思議な感覚が、文章によって鮮やかに再現されているのだ。

「中学生のころは毎日が濃密というか、とにかく時間が長かった。学校の行事も日々いろいろあったし、中学1年の春と2年の春では、誰もが身体的・精神的に別人と言えるほど成長していたりします。

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 中学生時代のパートを書いているとき、学校行事をちょっとくらい端折ろうかとも思いましたが、一つひとつの行事を経ることで登場人物たちの心の動きがあったり成長したりするから、これは書き飛ばせないなと感じました。そういえばあのころはすべてが大切な時間だった、と書いていて思い出しました」

 

恋愛に対する興味が小さくなってきた

 本人史上最長の集大成的作品が、恋愛小説であるというのも、「らしい」ところだ。

「思えばこれまで、恋愛小説をずいぶんたくさん書いてきました。恋愛という題材が、私の書くもののなかで大きい存在なのは間違いありません。ただ、これからも変わらず恋愛について書いていくかといえば、どうでしょう。減っていくような気もしています。

 このところ、恋愛に対する興味の塊みたいなものが、自分のなかで小さくなってきているのを感じます。以前は恋愛に関するシーンを描写するときになると、ロマンチックな気持ちが言葉になって溢れ出てきたものでした。でもいまは、ロマンチックな気分になる前に、ギャグやおもしろいオチをつける方向に考えがいってしまいます」

 

結婚や出産、時代による変化も

 恋愛への興味が小さくなった理由は何なのだろうか?

「自分自身や環境の変化によるものだと思います。結婚して子どももできて、家庭のなかで生活していると、恋愛を夢見ている暇があまりなくなってしまいます。

 それにこのところは、恋愛の話題自体を耳にすること自体が、減ってきているように感じます。私が10代20代のころは恋愛にのめり込んで、好きな人へすべてを捧げることにだれしも憧れるようなところがあった気がします。いまはまったくそんな雰囲気じゃなくて、どちらかというと皆それぞれ、自分の趣味などに走っていますよね。