「集大成的恋愛小説」。そう銘打たれているのが、綿矢りささんの最新刊『激しく煌めく短い命』だ。物語をたどれば、自分のなかに眠っていた初恋や大恋愛の記憶が、ありありと蘇ってくる。本作はどのようにして成ったのか。作者である綿矢さんの話に、しばし耳を傾けてみよう。(全2回の2回目/はじめから読む)
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京都の中学校で出会った悠木久乃と朱村綸は、互いに惹かれ合い距離を縮めていくが、あるきっかけで心は離ればなれに。十数年後、32歳になったふたりは東京で再会することとなり、新たに関係を築き上げていくこととなる……。
「主人公がこんなに暗くていいのかな? と迷いましたが…」
『激しく煌めく短い命』の主要人物たる久乃と綸は、いわゆる「愛されキャラ」ではない。ふたりとも小心で身勝手で偏狭で、どうしようもないと感じさせることしばしばだが、それが妙に生々しくてリアルでもある。
内面のドロドロした部分までしっかり暴いていく綿矢さんの容赦ない書きっぷりは、残酷さと小気味良さを同時に感じさせる。
「書いていると、特に視点人物である久乃は、どんどん考えをめぐらせていくタイプだったので、あえてそれを止めずにどこまでも見守ってみることにしました。そうしていたら彼女は、気づけば暗い性格になっていました。
主人公がこんなに暗くていいのかな? とすこし迷いましたが、私自身も時期によっては極端なマイナス思考に陥ることがあるので、とことんネガティブな人間のことも書いてみたくなって、なるように任せることにしました。久乃に自分を丸ごと投影させているわけではないけれど、彼女が心の奥底へ潜り込んで考えてくれるほど、書いている私の気持ちまでなぜかすっきりするような感覚がありました。
これはいつもそうなのですが、書きながらいろんな思考を試したり、考えを深めたりするところが私にはあります。日常ではさほど深く考えていることじゃなくても、それについて書き進めるにつれ、考えがちゃんと深まっていってくれる。逆にいうと、書かないと考えをうまく進められないわけで、書くという習慣が自分にあってよかったなと思います」

