19歳で芥川賞作家に、スランプも経験したが…
19歳の頃に史上最年少で芥川賞を受賞するが、その後は作品を書き進められないというスランプも経験した。その理由を「言葉や文章へのこだわりが強すぎて、前に踏み出せなくなっていた」と明かす。いかにしてそこから脱出したのか?
「文章や物語の勢いとエネルギーに任せるやり方を徐々に覚えてきたことと、締め切りの上手な利用法を知ったからです(笑)。
新人だったころは、締め切りが厳しい仕事はこなせる自信がなくて、お断りしていました。それではいけないと、締め切り付きの仕事を引き受けるようになってからは、スランプなどと言っている場合じゃなくなって(笑)。有無を言わさず書けるようになりましたね」
真剣に時代を描き出そうとしていたことが伝わったら
小説家としてのキャリアはすでに20年以上となる。スランプ期を経験するなど作家人生には起伏もあろうし、結婚や出産など自身の人生の節目や変化もさまざまあったと推察するところだが、小説を書くことへの「熱」は、つねに変わらず保てるものなのだろうか。
「小説は文字だけでつくられていますが、文字で表していない何か、時代の空気感とか人の気持ちまでちゃんと読者に伝わるから不思議です。小説は書いてあること以上のものを伝えられるすごい器なのだから、自分としてもぜひ小説の芸を磨いて突き詰めていきたいという気持ちは、いつも変わらずあります。
昔に書かれた小説を読んでいると、感覚や価値観はいまとずいぶん違っていてどうしても共感できない部分があったりしますけど、作者が真剣にこれを書いたのだろうということだけは、はっきり伝わってきます。特に長編だと、そういうことが起こりやすい。私は宇野千代さんの作品が好きなのですが、長編の『おはん』などを読んでいると、自分の生きた時代のことを精一杯の真剣さで書いたのだということを、ひしひし感じます。
自分の作品も、そうなればいいなと願っています。私の書いたものだってこれからどんどん古びていくのだと思いますが、時代を描き出そうと自分なりに真剣になっていたことが、ちょっとでも伝わったらうれしいです」
撮影=深野未季/文藝春秋
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