――タイトルを「ファーストラヴ」としたのは。
島本 この小説って、正しい初恋って一個も出てこないんですよね。むしろ初恋だと思っていたものは本当に初恋だったのか、という。本当はちょっと別のものだったかもしれないし、実は傷つけられたのに、それを見ないふりをしているのかもしれない。そうした逆説的な意味をこめてこのタイトルにしました。
前回の直木賞落選は、3年間夢に見た
――記者会見で、『アンダスタンド・メイビー』が直木賞候補になり落選した後、3年間は夢に見たとおっしゃっていましたね。確かにあれもすごく力の入った作品だったと思いますが、そこまで引きずったとは。
島本 あの後3年くらいは、獲れなかったという夢を見ていました。目が覚めて「まだ夢にみるか」って自分でも思いましたね(笑)。
『アンダスタンド・メイビー』は、普段から本を読む人にも、はじめて小説を手に取る人たちにも伝えたい、という気持ちが強かったんです。あれは地方都市の不良の子たちが出てきますが、そういう本を読まないような子たちの生きづらさや切迫感を書きたかったし、実際のそういう人たちにももっと読まれてほしかった。賞がほしいというよりは、賞をきっかけとして広く読まれてほしいという気持ちがすごくあったんです。
ただ、その時にすごく思ったのが、自分が精力的に書き続けていい作品をどんどん出していけば、結果的に読者が増えて、過去の小説も読む人が増えてくれる、ということ。だからこそ、手に取ってもらえるものを書いていかねばという気持ちがあります。
次描くのは「モンスターのような被告人」?
――次回はどんな設定の小説を書く予定ですか。
島本 今回は被告人を救う側の人が主人公でしたが、対立する側も書いてみたいですね。殺人を犯した人間と対決する立場というと、検察官かな、と。これから少しずつ準備していきますが、すでに恐ろしいモンスターのような被告人のイメージがあるので、書くのが怖い(笑)。でも、THEエンタメというようなモチーフの中にも、繊細に、ちょっとした心理描写だったり情景描写だったりを大事にしながら、自分だから書けるものを探っていきたいです。
写真=山元茂樹/文藝春秋