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こだわりに時代が追いついた?

――「#MeToo」運動が日本でも広まるなかで、こうした理解の一助になる作品が発表されることはすごくいいなと思いました。でも、ご自身はそうした世相を意識して書いたわけではないですよね。

島本 そうなんですよね。書き始めた頃は「#MeToo」運動もなかったので。本が出るタイミングでそういう動きが活発になってきたのは、不思議な偶然ですね。あるいは、今まで抑え込んできたことを、もう声に出していこう、という世代的なタイミングなのかもしれません。

――そうした世の中の流れを感じていた……なんてことはありますか。

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島本 いえ、むしろこの世の中の流れとは関係ないままに、そういうものを書き続けてきたっていう。本人はやたらこだわって書いているけれど、それに関してはあまり周囲から言及されないという実感のほうがありました(笑)。恋愛小説にしても、一時期は「もう誰も恋愛を書いていないよね」という状態の中、ひとりで恋愛を書いている人、と言われたこともありましたし。

 

――事件の真相だけでなく、由紀と、彼女の義弟であり環菜の弁護人となる迦葉という青年にも切ないストーリーがありますよね。彼らは実は学生時代からの知り合いで……という。こうしたカテゴライズできない人間関係も描こうと思ったのはどうしてですか。

島本 青春の光と影みたいなものをちょっと入れたかったんです。自分の10代の頃を振り返ってみても、恋愛関係になろうとしなかったらすごく幸せな関係性でいられたかもしれないと感じるものがあって。若い頃って、恋愛が一番すごいものだと思いすぎていた気がします。そういうことを年々実感するようになったので、書いてみたかったんです。

「いい人」を書くのが一番難しい

――選考委員からは由紀の夫の我聞さんが「いい人すぎる」という声もあったようですが、そこはいかがですか。

島本 由紀、環菜、迦葉が難しいタイプなので、バランスをとるという意味で我聞さんというキャラクターがいたんですが、実は、私も一番書くのが難しかったです。いい人なんですが、本当に単純にいい人だったら、何も気づかないはずですよね。気づいていながら見守っているなんて変わった人ですから、そのあたりの塩梅が難しかった。ただ、この小説の中では何人かの登場人物に、明確に読者がほっとする位置にいてほしい、というのがありました。