「身体、大事にしろ」
「どうですか」
「うん」
「今度は自信あるんですけど」
「丸山」
「はい」
「お前、……」
「はい」
長い、無言。
一度、電話が切れた。
笑った。
怒りがおさまらない。
心臓が、むきだしになった気がした。
優作から、電話。
「丸山」
「はい」
「お前……」
「はい」
「『荒神』、こえたんじゃないか」
「そうですか」
「今度、また飲もう」
「ええ、いつでも」
「丸山」
「はい」
「身体、大事にしろ」
「え?」
「ありがとな」
「どうしたんですか」
「じゃな」
「優作さん、もしもし、もっとちゃんと話をしろ! ずっとオレは、……あんたに育ててもらった……あんたがいなければ、ここまできていない」
「丸山」
「聞いてるじゃない」
「馬鹿」
「お互いでしょ」
「そうだな」
「今度、『チャイナタウン』と『緑色の血が流れる』、感想、聞かしてください。それで実現に向けて動いてください」
「うん。うん」
そして、
「探偵、やろう。B級、やろう」
それが優作と話をする最後だとは思いもしなかった。
そして私には何も知らされないまま、10月7日、優作『ブラック・レイン』撮影後の第1作、日本テレビ、セントラル・アーツ製作、『華麗なる追跡THECHASER』が放映され、同日、『ブラック・レイン』が公開された。
松田優作と黒澤満と、私が書きつづけていた優作のための脚本についてきちんと話し合ってからでないと『ブラック・レイン』は観ないと決めた。
まさか、あの病気とは。
あんなに凄い、世界をアッといわせる映画演技を残しているとは。
