『探偵物語』『野獣死すべし』を手がけた脚本家・丸山昇一。出会う前は「好きな俳優ではなかった」という松田優作との濃厚な関わりについて、こう振り返る。
「一緒に死んでもいいほど惚れていた。殺意を抱くほど憎かった」
ここでは、丸山氏が松田優作との出会いから永遠の別れまで10年余の日々を綴った『生きている松田優作』(集英社インターナショナル)から一部を抜粋して紹介する。
『探偵物語』で松田優作との運命的な出会いを果たした丸山氏は、優作からの無茶な発注を受け、独自の解釈で映画『野獣死すべし』の主人公・伊達邦彦を作り上げた。伊達を演じるために命すら削った、松田優作の驚きの役作りとは――。(全4回の3回目/続きを読む)
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「やりたい。ホンにして」
優作とは、こんなこともあった。
『探偵物語』の打ち上げの前、『翔んだカップル』の脚本づくりがレールに乗りはじめた時、優作から呼び出しがあった。
都内。『探偵物語』のロケ現場の近く。
工藤俊作の扮装で人目につきにくい路地裏に、優作があらわれた。
「お疲れさまです」
「おウ。どう?」
「ええ、まあ。どうですか」
「うん。もうゴールが見えてきたからさ」
「今日は『野獣死すべし』の件ですか」
「いや、そっちはまだ伊達をつかまえきれてない」
優作は、単行本を差し出した。
「あれやこれや、これから俺どうやって先を開いてゆくかって、……ちょっとアンテナにかかった」
その本の、ある頁を開いた。
一行、赤い線が引いてある。
「この感じ。感覚? やりたい。脚本(ホン)にして」
「え? 今ですか」
「忙しい?」
「ええ」
「ちょっと先でもいいから。よろしく」
とロケ現場に戻って行った。
