『探偵物語』『野獣死すべし』を手がけた脚本家・丸山昇一。出会う前は「好きな俳優ではなかった」という松田優作との濃厚な関わりについて、こう振り返る。
「一緒に死んでもいいほど惚れていた。殺意を抱くほど憎かった」
ここでは、丸山氏が松田優作との出会いから永遠の別れまで10年余の日々を綴った『生きている松田優作』(集英社インターナショナル)から一部を抜粋して紹介する。
自身が書いた脚本が、松田優作主演のドラマ『探偵物語』第1話に採用された丸山氏。その縁で、同じく松田優作主演の映画『最も危険な遊戯』『殺人遊戯』に続く「遊戯」シリーズ第3弾の脚本を依頼されて、急いで書くことになる。
書き上げた脚本を読んだ主演俳優からかけられた、予想外の“第一声”は――。(全4回の2回目/続きを読む)
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『探偵物語』第1話は視聴率20%超え
9月18日。
私は、内風呂のない1Kのアパートで、『探偵物語』第1話(となった)、「聖女が街にやって来た」を、『遊戯』シリーズ第3弾予定の原稿を書きながら観た。
それまでフィルムラッシュも試写も、いっさい観ていない。
脚本 丸山昇一
冒頭のタイトルバックのクレジット。そこまでは感激した。だが放送されたドラマはスラップスティックコメディ、ドタバタ劇の趣が強く、私が狙ったシチュエーション・コメディ、ハートウォーミングの味わいは極端に薄まっていた。
主演、松田優作は奮闘してナチュラルな生活者感を見せ、軽やかに演じているのはいい。だが作品とは、演出次第でこうも脚本の狙いが変わるものか。マンガみたいじゃないか。もっとも、脚本家の不満と懸念をよそに、初回放送は視聴率20%を超え(25.3%)、視聴者からの評判も良かった。そういうものか。
脚本家は、嬉しくはあるが、複雑でもある。
この村川透監督、松田優作主演で、『遊戯』シリーズ第3弾を書かねばならない。
アクションが売りの劇は依然として好きではないし、自分に合っているとは思えない。しかし注文である。駆け出しの脚本家は、イヤとは言えない。考えた。『最も危険な遊戯』『殺人遊戯』とも優作扮する殺し屋、鳴海昌平が、ハードで冷酷な生業の裏っ側で、ふざけ倒して笑いを誘うシーンも挿入される。そっち方面を表にして書けば第3弾をなんとか凌げるかもしれない。
現在ヒット上映中の大藪春彦原作『蘇える金狼』を観たが、アクションをからめたハードなシーンはなかなかの出来栄えだった。が、原作にはなく映画用に創作されたと思われる主人公、朝倉哲也の“実はドジな男の一面もある”と見せかけるコメディシーンは、いかにもとってつけたようで、村川・松田ラインには「聖女が街にやって来た」の結果同様、どこまで期待していいものか。
それでももし脚本が採用されたら、ついに35ミリ劇場用映画の脚本家としてデビューできる。
そこに、賭ける。
