そのまま生原稿を持ちこむと、待っていた黒澤が1枚のポスターを広げた。
『処刑遊戯』と題名(タイトル)が決定していた。松田優作の、いや、鳴海昌平の肖像(イラスト)とともに添えられた惹句。
「瞬きひとつ許さない…奴は狼の影!」
脚本、の欄には、丸山昇一、と刷りこんである。
まだ第一稿の影も形もない時に、もうこんなことを。
なんといい加減な。
負けず劣らずいい加減な調子で脚本を仕上げてきた私は、突然、不安になる。
優作が読んで、何と判断(ジャッジ)するだろう。
「……どう?」「……ええ、まァ」
優作と、会った。
『処刑遊戯』の撮影現場。
陣中見舞いと称して差し入れを持ってゆくもんだ、と教えられて菓子を提げて訪ねた先に、サングラス、革ジャンの優作がいた。
村川透監督、キャメラ・仙元誠三、照明・渡辺三雄、助監督・小池要之助、製作担当・青木勝彦。
気合いが漲り、撮影現場そのものが処刑場だった。
リハーサルの合間に、隅にいる私に気づいた優作が近づいた。
「……どう?」
「え? ……ええ、まァ」
何がどう?
で、何がええ、なのか。まァ当の本人ですらわからないが、これが私が優作と交わした最初の会話らしい会話だった、と思う。
近くに、マグナム44のステージガンが置いてある。メカは、今も見るだけで鳥肌が立つ。
オレの書いたハードボイルド、どうでしたか、と聞きたかったが、それこそハードボイルドではない。
優作はそのままリハーサルに戻った。監督と話して、ちょっとしたアクションの動きをした。
その身のこなし方、長い手足の動かし方、テンポ、スピード、相手を威嚇する顔と身体の角度、表情。それらの全身。後ろ姿。
やっぱりこの人は、ハードボイルドとアクションに生きる俳優だ。不意に、感動した。
スタッフのひとりが近づいて、耳打ちした。
「あんたが丸山昇一? 新人の脚本家(ホンヤ)さんだってな」
「ええ、はい。よろしくお願いします」
「優作氏、連日徹夜みたいなもんで風邪こじらせてさ、熱が、今、40度超えてんだよな。今夜も、これからもずっと、撮休ねェの」
もう一度、優作の背中を見た。
