キンメルの追放には右派によるメディア右傾化の目論見と、放送ビジネスが複雑に絡んだ背景があった。アメリカには2000近いローカルTV局があり、3大ネットワークと呼ばれるABC、CBS、NBCはそれぞれ200~250局の提携地方局を持っている。こうしたローカル局の多くはネクスター、テグナ、シンクレアといった複数の企業がそれぞれに所有している。
キンメルの番組停止を押し進めたのはABCではなく、ABCのローカル局を多く所有するネクスターであったと伝えられている。ネクスターは自社の規模拡大のためにテグナを買収する契約を締結済みだったが、最終的にはFCC(連邦通信委員会)の承認が必要となる。現在、FCCのトップはトランプ大統領によって任命されたブレンダン・カー委員長だ。
「まるでマフィアのボスのようだ」「脅迫だ」
ABCによるキンメルの番組停止が発表されるわずか数時間前にカーは保守派インフルエンサーのポッドキャストに出演し、「ABCは安易な方法を選ぶことも、困難な方法を選ぶこともできる」と発言。カーの発言はFCC自身が定めている「番組内容に対するFCCの権限は憲法修正第1条と通信法によって制限されている」に真っ向から反しており、「まるでマフィアのボスのようだ」「脅迫だ」と批判された。
トランプ自身は自分を批判的に報じるテレビ局の「放送免許を取り消すべきかもしれない」、それは「FCC委員長のブレンダン・カーに委ねられる」と発言している。つまりトランプはテレビ番組の内容をコントロールしたいがために、ネットワーク局にはカーを使ってプレッシャーをかけ、地方局は保守的な企業の傘下にまとめようとしているのだ。
実際のところ、地方局の保守化はすでに始まっている。ネクスターと並ぶ大手のシンクレアは、トランプ政権第1期の2018年に同社が所有する全米の200近いローカル局に同一の原稿を送り、ニュースキャスターに読ませる「強制読み上げ」を行なっている。
読み上げの文言は「ソーシャルメディアでは偏った虚偽のニュースの共有があまりにも一般的になっている」「これは私たちの民主主義にとって極めて危険だ」と、トランプが当時から頻繁に繰り返していた「フェイクニュース」に関するもので、まさに大規模なプロパガンダだった。
