政治や時事問題をジョークにして批判する「トークショー文化」

 キンメルの番組停止に大きな危機感を持ったのは、まずはキンメルと同様のトークショーのホストたちだった。アメリカにはコメディアンが深夜のトークショーでその日の政治や時事問題を軽妙かつ鋭いジョークにして笑い、批判する文化がある。視聴者はこの手法によって一見難しい政治問題にも関心を持てるため、非常に社会的意義のある番組形態といえるだろう。

 3大ネットワーク局はそれぞれ平日毎夜にトークショーを持っており、ジミー・キンメル(ABC)、ジミー・ファロン(NBC)、スティーヴン・コルベア(CBS)の3人が同じ時間帯でしのぎを削っている。さらに超深夜帯のセス・マイヤーズ(NBC)、ケーブル局でもジョン・スチュワート(Comedy Central)、ジョン・オリヴァー(HBO)が人気を博している。彼らはすぐさまキンメルへの連帯を表し、事態をジョークにして披露した。

米アカデミー賞の司会も務めたキンメル氏(本人Xより)

 中でもスティーヴン・コルベアは、自身もトランプによるメディアへの抑圧を番組で批判したために、来年5月に契約が終了したのちは番組自体が抹消されることとなっている。トランプは昨年の大統領選中にCBS『60ミニッツ』が行なったカマラ・ハリス大統領候補へのインタビューがハリスに有利になるよう編集されていたとして、CBSとその親会社であるパラマウントに200億ドルを求める訴訟を起こし、1600万ドルで和解した。

ADVERTISEMENT

 コルベアはこの訴訟を「巨額の賄賂」と言い、その直後にCBSはコルベアの番組を来年5月まで、ただし理由は局の財政問題であると発表。これを受けてトランプは「コルベアが解雇されたのは最高だ。奴の才能は奴の(低い)視聴率の数値にも及ばない」とポスト。これを見たコルベアは生番組で「くたばりやがれ」(Go f— yourself.)と応酬した。 

ディズニーへの抗議、ハリウッドスターらの署名活動も

 キンメル追放に怒った一般視聴者も#BoycottDisney (ディズニーをボイコットせよ)のハッシュタグを作り、配信サービスのディズニー+、傘下のHuluの解約だけでなく、今冬公開予定の『ズートピア2』や『アバター3』もボイコットするとした。この事態を受け、同社の時価総額は一夜にして38億7000万ドル下落したと報じられた(ディズニーはこれを否定)。

9月19日、カリフォルニア州のディズニースタジオの前で抗議するデモ参加者ら ©AFP=時事

 追い討ちをかけるように、約400人のハリウッド・スターや関係者がキンメルの番組停止に抗議する公開書簡に署名。政治問題が重要なネタであるコメディアンたちと、ロバート・デ・ニーロ、メリル・ストリープ、ジェーン・フォンダ、ショーン・ペン、ロージー・オドネルなど政治的な発言で知られる俳優たちを筆頭に、トム・ハンクス、ジェニファー・アニストン、ジェイミー・リー・カーティス、サラ・ジェシカ・パーカーなど錚々たるセレブが名を連ねた。

「ジミー・キンメル・ライヴ!」に出演するロバート・デ・ニーロ(YouTue「Jimmy Kimmel Live」より)

 ディズニーの子会社であるマーベル社の作品のレギュラー出演俳優であるマーク・ラファロ、テッサ・トンプソン、ナタリー・ポートマンも署名している。