なぜ“鉄道のない島”の支援を?

 それほど大きなコスト面の負担はないというが、それでもなぜ、“鉄道のない島”の活性化に力を注ぐのか。

「私たちのエリアって、大半がローカルなんです」と話すのは、JR西日本広島支社地域共生室リーダーの長田廣二さん。

三原方面を見る

「サイクルシップに乗るお客さんが増えて、それが新幹線利用に繋がればという思いももちろんあります。ただ、それ以上にローカルを元気にしていかなければいけないという問題意識を強く持っています。その一助になれば、というのがこのプロジェクトのいちばんの狙いですね」(長田さん)

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尾道からの出港風景

 愛媛県側の事業者・しまなみの村上さんは、「今治は尾道と比べるとまだまだ知名度も低いので、多くの人に知ってもらえれば」と思いを打ち明ける。

「地元・今治の人でもあまり地元のことを知らなかったりするんです。最近でこそ、海事学習を進めていて子どもたちにも造船所の工場見学などをやっています。が、私が子どもの頃はなかったですから。

 私たちの来島海峡の遊覧船では、造船所の中まで入るんです。今治のことを知ってほしいという思いもあって。だから、このプロジェクトを通じて広島も愛媛も、この地域のことを知ってもらい、魅力を感じてほしいと思います」(村上さん)

今治の造船ドック

 ちなみに、しまなみ海道が結んでいる尾道と今治。どちらも近年移住者が増加中だという。1年を通じて気候が良く、海産物にレモンと食も豊富。また、海と共に歴史を刻んできた町だから、外からやってきた人を受け入れる包容力を持っているのも大きな理由なのだろう。

山肌のレモン畑を見ながら大三島の井口港へ

 もちろん、そうした魅力は尾道や今治の都市部だけでなく、しまなみ海道の小さな島々にも共通している。

「しまなみ海道が通っている島だけでなく、来島や小島などそれ以外の小さな島にもそれぞれの個性や魅力がたくさんあります。それを知るきっかけになってくれれば」(村上さん)

うずしおが見られるはずが、タイミングが悪くほとんど見えず

 そのきっかけ作りの一助として、今回の乗船チケット「2日間乗り放題」という特徴が活きてくる。各島々に立ち寄り、また滞在型観光を促すことで、旅行者にしまなみ海道の新たな魅力を発見して欲しいという想いが込められている。

 今回の尾道~今治間のサイクルシップ運航は、10月の土日祝日限定の実証事業。今後の運航は実証結果次第というわけだ。ただ、島をもっと気軽に旅することのできるツールとして、期待は大きい。

島を気軽に楽しめる新航路が誕生した

「まずは結果を出して、携わってくれている事業者さんや地域の方々にメリットがある、継続できるという形にして事業化していきたい」と、JR西日本の長田さんは力を込める。

 サイクルシップで島から島へ。これこそが、いま瀬戸内の魅力をいちばん感じられる旅の手段なのかもしれない。

撮影=鼠入昌史

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