しかし、岡部たかしのキャリアは決して平坦ではなかった。24歳で柄本明が主宰する「劇団東京乾電池」の研究生になって以来、小劇場を中心に活動し、子供を抱えて生活のために様々なアルバイトをこなしながら演劇を続けてきた。
40歳頃からテレビドラマへの出演が増えはじめ、2022年の長澤まさみ主演『エルピス―希望、あるいは災い―』で演じた情報番組のチーフプロデューサー役が大きな話題に。パワハラ・セクハラを繰り返す問題上司でありながら、どこか憎めない複雑な人物を見事に演じ切り、50歳にして全国区の俳優となった。
『ばけばけ』の脚本家・ふじきみつ彦との関わりも深い。長年ふじきと岩谷健司を中心にした演劇ユニット「切実」で共に活動しており、ふじきが脚本、岡部たかしが演出を担当する公演も多数手がけ、その信頼関係は演劇界で確かなものになっている。ふじきの描く、一見ダメな大人でありながらも人間味あふれるキャラクターに、岡部は見事にハマっているのだ。
息子の岡部ひろきは現在24歳で、父とは異なり若くして俳優の道を歩み始めた。大河ドラマ『青天を衝け!』や朝ドラ『らんまん』『虎に翼』と着実にキャリアを積み重ねている。
岡部たかしの息子であることは公表していなかったが、2024年4月放送の『情熱大陸』で岡部たかしが特集された際に公になり、「別々の事務所でありながら、これまで2回、同じ舞台に立った」「演じるうえでの気持ちの持ち方など息子にアドバイスすることもある」と紹介されていた。
息子・ひろきが思春期の頃、岡部たかしの浮気が原因で離婚
しかし、この親子の関係には複雑な歴史がある。
ひろきが思春期の頃に、たかしは妻と別の女性と浮気をして離婚、妻と息子を残して家を出ていったのだ。その後、東日本大震災をきっかけにヨリを戻して、また3人で一緒に暮らし始めたものの、パンツ一丁で家中を歩き回りながら熱く演劇論を語る父の姿は、10代前半の多感な時期だった息子・ひろきに複雑な思いを抱かせるものだったという。
この複雑な感情を、岡部ひろきはかつて赤裸々に舞台上で表現したことがある。劇作家・演出家の岩井秀人が主宰するワークショップで出演者が自分自身の体験を台本にして演じる機会に、父・たかしとの関係、母への思い、そして自分自身の葛藤を見事に舞台上で表現した。

