そこには顔を紅潮させた彼女が…
彼女を探すと、洗面所の前に隠れるようにして立っていた。「ただいま」と声をかけると、顔を紅潮させ、明らかに動揺している。
「ビックリしたわ……」
それだけ言うと、トイレの中にこもってしまった。
(何か変だ……)
阿部が電気をつけて確認すると、寝室のベッドの布団がめくれ上がっていて、彼女の下着が散らばっていた。その近くにティッシュの塊が落ちており、拾ってニオイを嗅ぐと、確実に精子の臭いがした。これ以上ない浮気の証拠を目の当たりにし、阿部は美帆さんに詰め寄った。
「これはどういうことなんだ! 説明しろ!」
「違うの、違うの……、挿れてないけど……」
彼女は泣きながら、浮気を否定した。
阿部はさっきエレベーターですれ違った相手が、美帆さんの指導医であることを思い出した。
「今すぐ椎名先生に電話をかけろ!」
カマをかけたつもりだったのに、美帆さんに携帯を手渡すと、「それはできない」と拒否。ますます相手が椎名さんであると確信を深めた。阿部は音声レコーダーを用意し、「もう一度、最初から説明してくれ」と求めると、「この状況では話せない」と言って、家から飛び出してしまった。
阿部はまた美帆さんが家に戻ってきて証拠を隠してしまうのではないかと思い、カギ屋を呼んでカギを付け替えさせた。
さらに弁護士に相談しようと、スマホで近所の法律事務所を検索。弁護士からは「民事的なことで言うと、相手に損害賠償を請求できます。彼女が強引にセックスを強要されたということであれば、刑事告訴もできます」という説明を受けた。その夜、阿部は旧知の友人たち2人と会って、このことを話した。
「そんなことを美帆ちゃんがするのかな。まだ婚約したばかりなんだろう?」
