「てめえ、何てことしてくれたんだ!」
婚約したばかりの歯科医師の恋人を、年上の指導医に寝取られてしまった30歳男性。その怒りはおさまらず、復讐のためついには犯罪行為に手を染めてしまう……。復讐を果たした「犯人男性のその後」とは? 2017(平成29)年に東京でおきた事件の結末をお届け。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/最初から読む)
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恋人を寝取った男に復讐するため…
そのうちの1本は2人がローストビーフを食べるのに使った牛刀だ。歯科医はマスクをつけて仕事する機会が多いので、それでも隠し切れない場所に傷をつけてやろうと、自宅からペティナイフも持ち出した。
事件当日、阿部は包丁3本を持って美帆さんと椎名さんの勤務先である大学病院に行き、トイレで白衣に着替えた。6階の診察室に上がると、椎名さんがパソコンに向かって作業をしていた。
「椎名先生……」
一声かけ、振り返った椎名さんを、阿部はいきなり牛刀で右脇腹を突き刺した。
「てめえ、何てことしてくれたんだ!」
阿部と椎名さんは椅子ごと床に倒れ込み、阿部は周囲の目も気にせず、椎名さんに馬乗りになって、顔面付近をペティナイフで執拗に刺しまくった。
「おい、もうやめろ、いい加減にしろ!」
他の男性医師が3人がかりで止めに入った。椎名さんは血まみれになり、そのまま外科に運ばれ、緊急手術を受けた。全治3週間の重傷だった。
阿部はそれ以上暴れることはなく、落ち着いた様子で警察の到着を待った。警察は殺人未遂の現行犯で阿部を逮捕した。
