「これはどういうことなんだ! 説明しろ!」「違うの、違うの……、挿れてないけど……」
歯科医師の恋人と指導医の浮気を知った、30歳男性。その怒りはなかなかおさまらず、ついには復讐行為に出ようとする。最終的には警察も動いた同事件の発端とは……? 2017年(平成29)年に東京でおきた事件の概要をお届け。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の1回目/後編を読む)
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帰宅した彼氏を待ち受けていたのは…
阿部健介(当時30)は高校卒業後、大学で薬学を専攻していたが、医者になる夢が捨てきれず、24歳にして私立医科大に入り直した。
それから間もなく知り合ったのが別の大学の歯学部に通う鈴木美帆さん(同28)だった。2人は出会ってすぐに意気投合。結婚を意識して付き合っていた。
美帆さんの方が先に歯科医師の免許を取得したので、研修先に決まった大学病院の近くで同棲生活をすることにし、家賃15万円のワンルームマンションを借りた。
そこは美帆さんの同僚たちのたまり場にもなった。仕事帰りに打ち合わせをしたり、反省会を開いたりするのだ。その中に彼女の指導医の椎名和幸さん(同41)も混じっていた。
阿部は彼女が社会人になってすぐのゴールデンウィークにプロポーズ。食事の席で指輪を渡し、「結婚してください」と頭を下げると、「ハイ」と受け取ってくれた。まるで天にも昇る気持ちで、有頂天になった。
その後、お互いの両親や親族への挨拶も済ませ、結婚式の日取りも1年後に決定。確実に前進しているという実感が湧くとともに、これからの人生を彼女とともに歩んでいくという厳粛な気持ちにも包まれていた。
ところが、婚約して10日後のことだ。阿部は1人で実家に帰る用事ができた。彼女は休日だったが、例によって「昼過ぎから職場の先生たちが打ち合わせに来る」と言うので、ローストビーフを作っておいた。
阿部は夕方まで帰ってこないつもりだったが、午後3時過ぎには用事が終わったので、〈これから帰る〉とLINEした。だが、いつまでも「既読」にならなかった。
自宅マンションに着き、エレベーターから降りるとき、ちょうどすれ違いざまに乗ってくる男性がいた。チラッと顔を見たが、同じフロアーの住民ではなかった。玄関を開けようとすると、なぜかカギが開いている。部屋の中を見ると、遮光カーテンが閉め切られ、電気もついておらず、真っ暗だった。
「美帆、いるのか?」
