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路線全体が「日本夜景遺産」に指定

 まだ帰らない。この日の乗り鉄は、吉原からもういちど電車に乗って1往復するのだ。この旅のフィナーレは夜景電車。岳南電車が月に2回、金曜日に走らせる電車だ(2018年7月、8月ダイヤ)。土曜日の月もあるから要注意。日没時刻によって出発時刻も変わる。岳南電車のWebサイトで確認すべし。

 

 岳南電車は路線全体が「日本夜景遺産」に指定されている。工場夜景の車窓や、夜の闇に浮かび上がる無人駅の風情などが評価された。夜景電車は沿線の夜景を眺めるためのイベント列車だ。通常ダイヤで走る2両編成のうち、後部の車両の照明を落とし、窓を開けて夜景を眺めやすくする。通常ダイヤの各駅停車だから切符だけで乗れる。イベント料金は不要だ。昼間に使ったフリーきっぷでそのまま乗れる。

 

「夜景鑑定士」の資格を持っている乗務員

 岳南電車の乗務員のうち数名は「夜景鑑定士」の資格を持っていて、交代でガイド役となる。沿線の見どころ、工場などを解説してくれる。比奈駅付近の工場のトンネルはSF映画のよう。ここ以外にも工場夜景ツアーは各地にある。海や道路から眺めるツアーが多いけれど、おそらく岳南電車の「線路際の工場夜景」がもっとも工場に近い。大都会ほど明るくはないけれど、闇夜に存在を示す黒い富士山など、珍しくロマンチックな夜景を楽しめる。

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 岳南江尾まで往復して、吉原到着は20時13分。東京に帰るなら、20時42分発の東海道本線各駅停車に乗り、三島からこだまに乗りかえれば、22時16分に東京駅に着く。吉原発21時54分の電車に乗って三島で新幹線に乗り換えると、22時47分着。これを逃したらもう帰れないから、ホテルに泊まるしかない。

 もし意中の人を誘い、この旅でいっそう親密になれたら。1泊して翌朝のこだま号に乗れるかもしれない。それは君の手腕にかかっているけれど、その時のためにひとつだけアドバイス。吉原駅とジヤトコ前駅の間で、24時間営業のネットカフェが見える。くれぐれも気づかれないように。もっとも、私はその店をよく利用しているのだがね。1人で。

 

写真=杉山秀樹/文藝春秋