かつて井の頭線で走っていた電車
ところで「岳南電車」は愛称ではなく正式な会社名だ。2013年までは岳南鉄道という社名だったけれど、貨物輸送が終わったため、経営が厳しくなった。そこで、岳南鉄道が営む鉄道、物販、不動産部門のうち、鉄道部門を分社化した。自治体から資金の支援を受けるため、お財布を明確に分けた。……という話はやめたほうがいい。旅の雰囲気に合わない。ドン引きされるかもしれない。
岳南電車の窓口でフリーきっぷを買おう。昔ながらの堅いきっぷだ。そしてプラットホームから電車を眺め、乗り込む。かつて京王電鉄井の頭線で走っていた電車だ。銀色の車体にオレンジ、またはグリーンのマスク。ユーモラスだと思わないか?
岳南電車の特徴は「すべての駅から富士山が見える」だ。そこに興味を持ってもらえたら、ひと駅ずつ降りて確かめてもいい。駅は起点と終点を合わせて10個。9区間。日中は約30分間隔だから、ひと駅ずつ降りると約4時間30分で終点の岳南江尾に着く。
しかし、これは乗り鉄の上級編。たいていは飽きるし、電車からも確認できる。降りるべき駅は吉原本町。旧東海道の吉原宿として発展し、いまも製紙業の街の中心として賑わっている。ここでランチタイム。地元のB級グルメ「つけナポリタン」を食べよう。発祥の店は喫茶アドニスだけど、他にも提供する店がある。
製紙工場のどまんなかを
次に降りるべき駅は比奈駅。ただし車窓に注目。製紙工場のどまんなかを電車が通り抜ける。ローカル線にきたと思ったら、パイプが張り巡らされた工場街。このギャップもまた楽しい。比奈駅で降りたら散歩だ。ゆっくり歩いて15分ほどで竹採公園に行ける。かぐや姫伝説に由来する公園だ。竹林の道を一周できる。ロマンチックな散歩道。この地域のかぐや姫は月の姫ではない。富士山に帰るという。
パートナーが鉄道に興味を持ってくれたなら、比奈駅の駅舎が鉄道模型ショップになっている。興味がなさそうなら、お店で飼っているワンコと遊ぼう。サラちゃんという。『ターミネーター』の主人公の母、サラ・コナーから名づけられたそうだ。勇敢な名前にしては人懐っこくてかわいいぞ。
次の岳南富士岡駅には、紙を運ぶ貨物輸送で活躍した機関車が留置されている。JR貨物と違って、小さくてかわいい機関車たち。次の電車が来るまで休憩しつつ眺めたい。この後は時間と相談だ。もう夕方になっているはず。岳南江尾まで行きたいなら18時25分発に乗り、すぐに折り返す。その時刻を過ぎてしまったら、18時45分の電車で吉原に戻る。