「クスリをやっていると、体調に不具合が出てくる。これは俺の治療のためだ。すぐに服を脱げ」
実の娘3人に性加害を加えた、ロシアンマフィアのボス。しかしその横暴は続かず、最後は命を落とすことに……。三姉妹はいかにして父親の呪縛から逃れたのか? 父を殺した娘たちのその後とは? 2018年(平成30年)にロシアで起きた事件を、我が子を無惨に殺された親、学生時代ひどいイジメに遭った者などが仕返しを果たした国内外の事件を取り上げた新刊『世界で起きた戦慄の復讐劇35』(鉄人社)から一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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マフィアのボスはなぜ死んだ?
2018年7月、ロシアの首都モスクワのアルトゥフェフスコエ高速道路の傍にあるアパートの階段で、麻薬の密売を生業とするマフィアのボス、ミハイル・ハチャトゥリアン(当時57歳)の殺害遺体が見つかった。当初はマフィアの抗争による殺人事件かと思われたが、ほどなく逮捕されたのはミハイルの実の娘3人。彼女たちは長年にわたり、父親から精神的被害、性的被害を受けており、犯行はその恨みを晴らすためのものだった。
少年期から麻薬中毒だったミハイルが、後に結婚するアウレリアと出会うのは1996年、彼女が19歳のときだ。ほどなく彼女は妊娠、1998年に長男セルゲイ、1999年に長女クレスティーナ、2000年に二女アンジェリーナ、2001年に三女マリアを出産する。長男を生んだころからミハイルが妻に暴力を振るい始め、やがてそれは子どもたちにも及ぶ。アウレリアは何度も警察に相談したが、当局はまるで相手にしてくれない。
というのも、ロシアでは家庭内DVは“家族間の問題”として捉える風潮にあり、それを罰する法律がなかったのだ(2017年の法改正で、家族を殴って出血や打撲を負わせた場合、罰金刑に処されることになった)。また、近隣住民もミハイルが妻や子供たちを虐待していることを知りながら、彼がロシアンマフィアのため、注意・警告を行うと必ず報復されるものと見てみぬふりをしていた。
2015年、ミハイルは妻アウレリアと息子セルゲイを家から追い出し離婚する。後の彼の蛮行を考えると、美女に育った娘3人と暮らすため邪魔な2人を排除したようだ。ミハイルはすぐに牙を剥く。家中に監視カメラを設置し、娘たちが自宅にいる間、その行動を全て把握した。誰かに携帯で電話をかけようものなら、追い出した母親への電話だと疑い怒号を飛ばす。後に長女クレスティーナは語っている。
「父は特別なベルを持っていて、それを鳴らすと、私たちの1人が昼夜を問わずすぐに父のところに駆け寄らなければなりませんでした。そして、水、食べ物、その他、父が望むものを全て持ってくるよう命じられました。父は自分で窓を開けることさえせず、私たちは奴隷のように父に仕えなければなりませんでした」
