「便器1個400万」「金ピカのトイレ」というデマも広がった
――その状況で、火中の栗を拾うかのように 自らSNSで発信を始めました。
米澤 正直に言うと、この時点での情報発信をすることについて、ものすごく悩みました。当然、批判の矢面に立つかたちになるでしょうし、もしかしたらこれまで想像もつかないような誹謗中傷の被害を受ける可能性もありますから。
――それでもなぜ自身の思いを発信されることにしたのでしょう?
米澤 さらなる炎上リスクを引き受けてでも発信を続けた大きな理由は、同時期にトイレ5の施工者を選ぶ、一般競争入札の公募が行われていたからなんです。
1回目の公募が不落となったタイミングで、関西の建設業界を中心に「本当に万博に関わってしまって良いのだろうか?」と戸惑う空気が漂っていて、各社が足並みを揃えて、交わりを避けている雰囲気が感じ取れました。
国家プロジェクトでもある万博には、本来ならば夢や希望があると思っていたんですけど、その時は「炎上に巻き込まれたくない」とか、「かえって企業イメージを下げるのでは?」と言う皆さんの思いもあってか施工者が決まらず、2回目以降に持ち越しとなりました。
――2度目の入札でも名乗りを上げる業者はおらず、トイレ全体のうち最後まで取り残されていたトイレ5の施工業者が決まったのは、3度目の入札。落札価格は1億5372万円(税別)でした。
米澤 2回目の公募時期終盤に、私たちに対する風当たりがこれまでにないほど強くなりました。関西では「万博に関わるとロクなことがないから、関わらない方が良い」といった噂が流れていることも知っていたので、2度目の入札が不調に終わった時に「これは少しでもイメージを上げていかないとまずいかもしれない」と、本気で危機感を感じるようになりまして。
まずはSNSを通じてきちんと説明責任を果たし、正しい情報を発信しつつ、この建築の意義を理解してもらいイメージ回復しなければと心がけました。協賛していただく皆さんにもこのままでは良くないという思いもありました。
――例えば若手建築家が携わったトイレは、TOTOが協賛しているんですよね。
米澤 はい。だから実は費用に便器は含まれていなくて、かかった費用の大半は下水道の工事や構造体そのものの制作コストなんですけど……。過去にはひろゆきさんの「便器1個400万円」という誤った発信が広まってしまい「金ピカのトイレなのか?」などと、さらなる批判を受けたこともありましたね。強い影響力をお持ちの方なので、当時は「事実を確かめて情報を発信してくれよ……」と思ったんですけど(苦笑)。
