「クソジジイ」「殺人鬼トイレ」などの誹謗中傷も

――騒動の中で、印象に残っている批判や言葉はありますか。

米澤 中抜きやぼったくりだと思われることが多かったので「明細を国民に見せてください」と言われたりしましたね。あとは「クソジジイ」とか、理由は分かりませんが「殺人鬼トイレ」といった誹謗中傷もありました。私が勤めている大学に通報しようとされたり、「建築関係から身を引け」や「大学教員を辞めろ」と言われたり、まあいろいろありました。

――誤った情報もそうですが、そうした言葉に心が折れることはありませんでしたか?

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米澤 あまりメンタルが強いわけではないのですが、極力、状況を俯瞰し客観的に考えることを意識して平静でいることに努めました。確かに酷い言葉をたくさんかけられましたけど、それでも取り乱すことがなかったのは、どこかで「自分に非がない」と信じられていたからかなと。

 あとは一緒に万博に携わり、ライバルでもあり仲間でもある若手建築家や、僕の事務所で働いてくれている所員がいてくれたことも大きかった。特にうちの事務所の所員は、僕が騒動に巻き込まれていた時も、SNSの投稿を添削してくれたり、忌憚なくアドバイスをくれたりして、「運命共同体」と言っても過言ではないくらい、心強い存在でした。

©石川啓次/文藝春秋

――当時の雰囲気とは一転し、大阪・関西万博は大盛況、2億円トイレに対してもポジティブな声が大半を占めるようになりました。あらためて火消しに奔走された日々を振り返っての思いを聞かせてください。

米澤 おかげ様で多くの方に楽しんでいただいていますし、僕をはじめとする建築家の皆さんがポジティブな評価を得られたことは、業界全体にとっても良かったと思っています。

 もし「建築家が良くないことをしている」というイメージのまま、万博が幕を下ろしてしまったら、次の時代を担う下の世代や、建築家を目指して必死に勉強を続けている学生さんにとってもマイナスですし、何よりも彼らが挑戦する機会を奪いかねないですから。

 確かに辛いこともありましたけど、もし僕が声を上げなかったら「良くない建築を作った人物」として後世に汚名を残してしまう可能性もありました。そうした事態を避けられて、皆さんの未来を守れたことに胸を撫で下ろしています。

次の記事に続く 「ぼったくり」「便器1個で400万」と大炎上→ファンクラブができるほど“人気パビリオン”に…大阪万博「2億円トイレ」がたどった数奇な運命

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