万博会場からつまみ出されたことも

――そういえば、開幕後は米澤さんご自身でも正式名称の「トイレ5」ではなく、「2億円トイレ」という通称を、積極的に発信されるようになりましたね。

米澤 僕は会場に通い来場者の声に耳を傾けるうちに「2億円トイレ」というネーミングを「愛のあるイジり」と捉えるようになったんです。オフィシャルの場で「『2億円トイレ』とイジって楽しむのは、関西特有の愛とユーモアのある文化だと思います」という趣旨の発言をすると、たちまち「堂々と『2億円トイレ』って言って良いんだ」という風潮が生まれていきました。

 それからWikipediaに「2億円トイレ」のページができて、Googleマップにも「2億円トイレ」が掲載され、やがて積み木、レゴ、マインクラフトで2億円トイレを表現したり、キーホルダー、風鈴、服、漫画やマスコットキャラクターを作ったりする方まで登場し、どんどん人気に拍車がかかっていきました。

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――2億円トイレのスタンプも生まれましたね。

米澤 ある時期から、2億円トイレのファンから「他のパビリオンと同じようにスタンプを置いてほしい」と提案を受けることが多くなり、それにお応えする形で実際に作ってみたんです。ただ、厳密にはパビリオンではないですし、国や企業によるものでもないので、公式スタンプのように、場内に設置するのは難しいだろうと。

 それで、ファンとの交流も兼ねて、ある日「明日は現地に行くので、トイレの前に来てくれたらスタンプを押します!」とXで発信してみました。ただ、当日の現地に凄まじい数の人が押し寄せてしまって……。混乱を避けるために、中止せざるを得ませんでした。

2億円トイレ=トイレ5のスタンプも生まれた(米澤隆建築設計事務所提供)

――それくらい、2億円トイレを愛する人が増えたんですね。

米澤 実はXで告知したあと開催時間の直前に、万博協会から電話がかかってきてたんですよ。タイミングが合わず電話に出られなかったのですが、要は「中止するように」という勧告だったんだと思います。とはいえ告知をした手前、それだけを目的に来てくださる人もいるので中止するわけにはいかないなと。

 それで当日、まあ20~30人くらいだろうと思っていたところに物凄い数の人が集まっていて、驚きました。しかも、現地に万博協会の人が5人くらい待ち構えていて、着いた瞬間に会場外までつまみだされてしまいました(笑)。

 「米澤さん、自分の人気を理解してください」「こんなやり方したら、人が殺到するに決まってるじゃないですか」とか叱られましたよ。その他、複数の警備員の方がメガホンで「中止、中止!」と叫ばれるという状況になってしまいました。