「日本スゴイ」がMCのコメントやテロップでも
勝手に定義した「正しい日本文化」をものさしにして、そこからはずれるものを認めないという偏狭な番組のコンセプトが、現実的には世界中で入り混じりまくる「文化」の現実の姿を知る視聴者から呆れられたわけである。
ともあれ、各番組で「日本人でも知らなかった」というポイントが強調されているように、オーディエンスにとってはまずもって〈身近にある未知のものに触れて知的好奇心が満たされるプログラム〉であるとは言える。もちろん、テレビの世界では〈身近にある未知のもの〉を紹介するのが知的なエンターテインメントの伝統的な常道ではあるのだが、右に挙げたような番組群にはそこに必ず「だから日本がスゴイ」が接続されているところに特徴がある。
「日本スゴイ」がMCのコメントやテロップで画面に被せられてゆくパターンでは、NHK『驚き!ニッポンの底力』で2013年秋に放映された「大海をゆけ 巨大船誕生物語」が好例だ。
「それがすごく日本人っぽいというか」
この番組では、ノイズを軽減したプロペラや荒海でも静止できる海洋調査船などの技術が紹介されたうえで、
「最近日本が落ち込んできていたが……まだまだ日本も捨てたもんじゃないなと思いました」
「……いろんな人が協力しあって乗り越えてきた上に今の私たちの生活があるんだなと思うと、それがすごく日本人っぽいというか」
「うれしいですよね、誇りに思える」
——と、番組の最後にMCとゲストが感想を述べていた。それぞれの技術を開発した人や企業がまずはスゴイはずなのだが、いつのまにか「日本人っぽい」「誇りに思える」といった自民族の優秀性を強調する感想へと接続されているのである。
2017年以降、「日本スゴイ」番組はどんどん減少
番組最後の出演者の感想の場面などほとんどの人は聞き流す程度のものであるとは思うのだが、このコメント台本を書いた番組の作り手がこめたメッセージは明瞭だ。〈日本は実はスゴイ〉〈日本人らしさを発揮している〉〈同じ日本人として誇りに思う〉なのだ。
「すごいプロペラ」から「日本人として誇りに思う」の間には論理的にも大きな飛躍があるはずなのだが、そこを「日本人として」の共感でやすやすと乗りこえているのだった。そしてそのよくわからない情緒が、この数年のあいだに、ゴールデンタイムのテレビ番組から大量に流されていたのである。
ところが2017年以降、「日本スゴイ」番組の放映はどんどん減少していった。とりわけ民放系では——一部を除いて——毎週のレギュラー番組であったものが月に一回とか一クールに一回などスペシャル番組化し、たまにTVをつけるとやっている……的なものに変化した。やはり過剰に集中したがゆえに飽きられた感が強い。