もともと、死刑執行前という状況下だったため「執行を遅らせるための虚言ではないか」などという報道がされていた。原氏によると、死刑囚は、日本で実行犯となっていた数々の強盗事件などを自白。警視庁はすぐに複数の現場の被害確認を行い、裏取りができていたこともあり、「素直に話していたように感じた」と振り返った。

 何度か死刑囚の様子を確認していた在中国日本領事館の関係者も、記憶に残る事件だと当時を振り返った。収監されていた死刑囚が、やせ細った姿で手枷足枷を引きずりながら面会室に現れたことを鮮明に覚えているという。

「命乞いをすることなく、死刑を受け入れていた。達観した老人という感じだった」という死刑囚。警視庁らが捜査に訪れた翌年の2010年4月、薬物注射によって死刑は執行された。遺骨は、遺族の事情ですぐに取りに来ることができず、しばらくの間、領事館に置かれていたという。

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 その死刑囚が「事件について知っている」と名指しした中国人男性・K氏。警視庁は関係者の内偵捜査を進め、K氏が死刑囚の側近で、通訳を担っていることなどを確認していった。K氏は強盗団のメンバーとも関わりが深く、犯罪歴もあり、死刑囚の逮捕後にカナダへと移住していた。


 こうした情報を報告すると、原氏は上司から「Kを日本に連れてくるように」と指示を受けたという。ナンペイ事件について知っているかもしれないという証言をもとに、外国にいる男性の引致を目指すのは前代未聞だったが、中国人男性・K氏をめぐり、カナダとの異例のオペレーションが始まった。


中国人男性の捜査を指揮した捜査一課元幹部の原雄一氏 ©NHK

カナダにいる中国人男性・K氏から話を聞くために…

 カナダと日本の間に犯罪人引き渡し条約はないため、カナダにいる中国人の男性を捜査するためには、外交ルートでK氏の身柄を求める交渉が必要となる。

 そこでまず警視庁が目をつけたのは、K氏がかつて日本人名義で不正取得したパスポートを使い、中国へと出国した“旅券法違反”の容疑。名古屋を拠点にしていた2002年、不正に中国に出国していた事実でカナダに引き渡し要請をすることにした。旅券法違反で逮捕し、その後、ナンペイ事件に展開していく方針を固めたという。