捜査はどこまで迫り、何が壁だったのか。発生30年の新証言
事件発生から30年となった今年。中国人男性・K氏の捜査の関係で、警視庁が事情を聴取していた人物を複数、取材した。
K氏と地元が同じで、日本人死刑囚の強盗団に所属していた中国人2人。現在受刑生活を送る彼らに手紙で取材を申し込んだ。2人は、ナンペイ事件で何度も警視庁の捜査員から事情聴取を受けていた。
このうちの一人、A氏は、ナンペイ事件について言葉少なだったが、強盗の手口については「5、6人のグループで襲撃し、住人はガムテープで縛る。通常は殴ることはしないが、抵抗すれば、けがを負わせてしまうこともあった。少ない人数で現場に入るとミスが起こりやすい」などと手紙に綴っていた。
もう一人は、K氏と仲が良かったというB氏。1990年代、250万円ほどを借金してブローカー“蛇頭”に手数料を払い、日本に密入国したが、次第に返済が滞るようになり、保証人となった家族がマフィアに刺されたことで、借金を返したいと日中強盗団のメンバーとなったという。手紙には「Kから誘われて、強盗団に入った」とあった。B氏はナンペイ事件については「誰が関与しているか、全く知らない」としながら、事件解決を祈っていると綴っていた。
K氏もつながりがあったとみられたことで、捜査線上に浮上した日中強盗団。1990年代に日本に来たメンバーも少なくなかった。背景には何があるのか?
当時、中国人の密入国が急増していたと語るのは、B氏も利用したブローカー“蛇頭”に詳しいジャーナリストの莫邦富氏。日本と中国の賃金格差が大きかった時代に、日本に行って一攫千金を狙おうと密航してくる若者が後を絶たなかったという。不法滞在する中国人が強盗などの犯罪に手を染めたケースについて聞くと「密航者の場合、指紋も登録しておらず、住所もなく、そもそも誰が日本にいるかも把握されていない。犯罪をしたとしても誰も知らない、知られていないという妙な安心感があったのではないか」と指摘した。
さらに今回、死刑囚やK氏とも関わりの深かった人物にも接触できた。元麻薬密売人のカルロス氏。当時、中国人男性・K氏の関係の捜査を進めていた警視庁が証言を重視していた人物だ。6月に関東の某所で撮影を行った。キャップ、Tシャツにハーフパンツというラフな格好で現れたカルロス氏の脛には、ブラジルにいたころ、拳銃で撃たれたという傷跡があり、拳銃被害の深刻さが感じられた。
カルロス氏は20年ほど前に聞いた事件のエピソードについて、ひとつひとつ、記憶を辿りながら証言した。




