警視庁がナンペイ事件で話を聞きたいと訪れた当初は聴取に協力しなかったというが、その後、応じるようになった理由についてこう語った。

「当時の刑事から『被害者がどんな気持ちで最期を迎えたか、どんな怖い思いをしたか』って言われたんですよね。まだ高校生ぐらいの方たちの恐怖心っていうのを考えたらね、ものすごく怖かったと思うんですよ。そこからですよ。協力しようと思って」

 刑事から説得を受け、何の落ち度もない被害者が突然命を奪われたことについて考えるようになり、“自分が知っている情報を伝えることで捜査が進むのであれば”と協力するようになったという。

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 今は麻薬密売の仕事から離れ、静かに暮らしているというカルロス氏。数十年前の話でも、関係者は各地にいるため、関連の情報をテレビカメラの前で証言することにはリスクがある。それでも「一度、警察に話したことだから、吐いたつばは飲まない。風化せず解決に向かってほしい」と今回の取材にも応じた。

 さらに捜査線上に浮かんだ関係者への取材を進めると、日本人死刑囚やK氏をよく知る元暴力団員の男性にもたどり着いた。今回、複数の関係者が重い口を開くことで、当事者でなければ分からない当時の状況などが徐々に浮き彫りになっていった。彼らが発生30年にして改めて語った証言について、詳しくは番組で紹介したい。

事件を風化させない。関係者は事件解決を思い、証言した

 番組では全国にいる捜査関係者をはじめ、200人以上から当時の話を聞く機会を得た。取材をはじめたのは、今から1年ほど前。同僚から「30年も前の事件で、話してくれる人はなかなかいないのでは」などと声をかけられたが、「事件が少しでも動いてほしいから」と多くの人が取材に応じた。

 今回、当時のことを丁寧に思い出してくれた方、リスクがある中でも証言してくれた方、1990年代の捜査の実態や、町の変遷などを教えてくれた方、時間が経っていることで、「今だから言えるけれど、実は……」と証言してくれた方々がいたおかげで放送につなげることができた。

「何かあったら逆に教えてほしい」「今も新しい情報を心待ちにしている」「ちゃんと取材を進めていってほしい」と声をかけられたことに応えられるような番組につなげたいと考えてきた。この場をお借りして、すべての皆様に感謝を申し上げたい。

全国の関係者に取材した ©NHK

情報提供などをもとに、警視庁の捜査は続いている

 今も八王子署にある、特別捜査本部。これまで、現場に残された指紋やDNAの分析などをはじめ、地道な捜査が続けられてきた。30年間にわたって、数千人の人が捜査対象となる中で、さまざまな見立てが浮かび、沈んだ。グレーの対象者を捜査対象から外すための、いわゆる“潰し”の捜査も入念に行われてきたという。

 特別捜査本部・担当理事官(取材当時)の大井英世氏は、「警視庁にとっても絶対に忘れてはいけない事件。1つ1つ確実に捜査しており、絶対に検挙しなきゃいけない事件だと捉えています」と語った。

 本部内には、犯行時間の午後9時15分を示す時計、被害者3人の遺影、被害者の友人らが作った千羽鶴が今も置かれている。年々少なくなっているものの、毎年届くという情報などを元にした捜査は今も続いている。

発生30年に張り替えられたポスター ©NHK
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