老朽化したアパートの住民も出演

宇田川幸洋(以下、宇田川) 映画業界に入る前はどのような人生を歩んでこられたのでしょうか。

チャン 私はコンピューターを学んでいましたが、興味が持てず、兵役を経て映画の世界に入りました。当時は多くの人がニューヨークなどで映画を学んでいましたが、私は台湾の映画業界で弟子入りする形で学びました。最初はドキュメンタリーを撮りながら、少しずつお金を稼いで作品を作るようになったのです。

宇田川 この映画を観ると誰もが舞台となるアパートが印象に残りますね。2棟がV字形になっている構造を生かした演出がとてもいいんですが、この建物と出会ってそこから発想が生まれたというのがとても素晴らしいと思います。監督とあのアパートの出会いこそ「優雅な邂逅」だったのではないかと感じました。あのアパートはどこにあるのでしょうか。

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©台湾映画上映会2025

チャン あれは台北の有名な龍山寺というお寺の近くにあります。もうすぐ取り壊されることが決まっている警察の宿舎で、6年前に見つけ、ずっとそこで映画を撮りたいと思っていました。V字型の端に向かい合った2部屋を借りたかったのですが、片方がなかなか空かず、3年前にようやく借りられて、この脚本を書くことができました。かなり老朽化していて、天井が落ちてきているところもあったり、撮影は危険も伴いましたが、実は今も人が住んでいます。映画に出てくる住民たちも、エキストラではなく、実際にそこの住民たちなんです。

チャン・ツォーチ監督

生活感がなければ観客は物語を信じることはできない

宇田川 監督の作品は、デビュー作から一貫して、演技経験のない素人を起用されているのが特徴的です。今回もそうですが、そこにはどのような意図があるのでしょうか。

チャン 私は老人や子供を起用するのがとても好きです。彼らは非常に純粋だからです。プロの俳優と仕事をすることは、私にとって時として苦しいことでもあります。観客にスクリーンに映し出された物語を信じてもらわなければなりませんが、ストーリーがいくら良くても、演じる人の言葉や仕草に生活感がなければ、観客を信じさせることはできないと思います。

宇田川 作品の中で使われる「言葉」にも強いこだわりを感じます。標準語ではなく、原住民の言葉も含めて、様々な方言が使われていますね。