チャン 標準語はあくまで公的な言葉であり、感情を伝えるためのものではないと考えているんです。むしろ方言こそが「生活の言葉」。一言一言に、その土地の歴史や文化が凝縮されています。 

 商業映画ではしばしば、プロットを進めるために俳優が標準語の台本を正確に読むことが求められます。しかし、私にとってそれはどこか気持ち悪く感じてしまう。生活感がなければ、観客はその物語を信じることができないからです。

「多様性」こそ台湾映画の魅力

 観客からは、本作が全編モノクロで撮影された意図について質問が出た。

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チャン ロケをしたアパートは、カラーで撮るには荒れすぎていました。カラーでは観た人に怒られそうな気もしました(笑)。モノクロにすることで、建物の古さに歴史が感じられますし、独特の「味」が生まれます。ただ、撮影は非常に難しくなります。美術や衣装もすべて、カラーとは異なる考え方で準備しなければならず、負担は大きかったです。しかし、あのアパートを朽ちてはいても美しく見せたかったので、モノクロにするのは必要でした。

『優雅な邂逅』©Chang Tso Chi Film Studio

リム あらためて、お二人にとって台湾映画の魅力とは何だと思われますか。

宇田川 台湾映画は非常に率直で正直な感じがします。描きたいものに直接切り込んで、観客にストレートに伝える力がある。日本の映画のように、様々な「しがらみ」や伝統的な語り口に縛られていない自由さを感じます。

宇田川氏(左)とリム監督 ©台湾映画上映会2025

チャン 私は「多様性」があるところだと思います。特にNetflixなどが参入してきてから、様々な形態の作品が生まれるようになりました。私がこの業界に入った頃は、台湾ニューシネマの時代で、一部の映画好きのためのものという印象でした。しかし今は、多種多様な作品がある。私自身は、自分が感動しないと人には伝えられないと思っていますが、撮りたいものがあるなら、撮るべきだと考えています。

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