リム・カーワイ監督をキュレーターに迎えた「台湾文化センター 台湾映画上映会」の第4回目が7月5日、東京大学駒場キャンパスKOMCEE East K011(東京・目黒区)で開かれた。近年、日本でも紹介が進む巨匠ワン・トンの自伝的傑作『赤い柿』が日本初上映され、猛暑のなか多くの観客が足を運んだ。

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 この日は1995年製作の『赤い柿』(デジタルリマスター版)が日本で初上映された。ホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンに比べて日本では紹介が遅れた“知られざる巨匠”ワン・トンの傑作だ。上映後のトークイベントには、映画評論家の村山匡一郎氏とリム・カーワイ監督が登壇、ワン・トン監督の作風やホウ・シャオシェンら台湾ニューウェーブを代表する監督たちとの違いなどについて語り合った。

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『赤い柿』(デジタルリマスター版)

『赤い柿』(デジタルリマスター版)

1949年。国共内戦に敗れた国民党軍とともに、王将軍一家も台湾への移動の準備を始める。やがて新天地台湾へやって来た一家は郊外の広い日本家屋に暮らし始めるが、11人の子沢山一家の暮らし向きは父親の退役とともに次第に苦しくなっていく。そんな中、家族の生活を支えていたのが、孫たちに囲まれたおばあちゃんの知恵とユーモアだった―。第33回金馬奨最優秀美術設計賞受賞、最優秀監督賞・最優秀主演女優賞ノミネート。

監督・脚本:ワン・トン/出演:タオ・シュー、シ-・チュン、ワン・シュエン/1995年/台湾/168分/原題:紅柿子/©Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.

父は国民党軍の将軍、6歳で台湾に移住

リム・カーワイ(以下、リム) 村山さんはワン・トン監督と交流があったそうですね。

村山匡一郎(以下、村山) 交流というほどではないですが、監督が『バナナ・パラダイス』で福岡の映画祭に来られたときに、ご挨拶したことがあります。それとは別に、僕には長年の親友で、同じく映画評論家の(ちょう)昌彦(まさひこ)さんという方がいるのですが、彼がワン・トン監督と同い年で、しかも小学生の時に同じ学区にいたそうなんです。

村山匡一郎氏(左)とリム・カーワイ監督(提供:台湾映画上映会2025)

【『赤い柿』はワン・トン監督の自伝的作品だ。1949年、国共内戦で劣勢の国民党軍の将軍が、老母や妻、10人の子どもたちを台湾に避難させるところから映画は始まる。実際に国民党軍将軍を父に持つワン・トン監督も、当時、家族と一緒に台湾に移住してきたという。6歳のときだった。】

村山 張さんのお父さんは戦前から台湾にいたお医者さんで、戦後も町医者としてかなり有名だったらしい。そして映画と同じように国民党軍の将軍だったワン・トン監督のお父さんの主治医だったそうです。福岡でワン・トン監督に会った時、張さんもいて、彼らが旧知の間柄のように話していたのは、そういう背景があったからなんだと後で知りました。

リム ワン・トン監督は、日本ではホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンほど知名度が高くありません。台湾ニューウェーブの中での彼の立ち位置を、村山さんはどう見ていますか?

村山 まず、世代が少し上だという点が大きい。そしてもう一つは、彼が撮影所の出身だということです。美術スタッフとしてキャリアをスタートさせている。これは、自分の生活をリアルに見つめることから映画作りを始めたニューウェーブの監督たちとは、出発点が根本的に違います。