黒澤明のような色遣い
リム ワン・トン監督は、象徴的な表現、特に「色」の遣い方が巧みですよね。『赤い柿』も、オープニングはモノクロなのに、おばあさんが故郷を思う場面で柿だけが「赤」く色づきます。黒澤明監督の『天国と地獄』で、犯人が身代金の入っていたバッグを焼いた煙突の煙だけがモノクロ画面の中でピンク色になる、あの有名なシーンを彷彿とさせました。
村山 そして台湾に着くと、今度は「黄色い」バナナが出てくる。故郷の赤と新しい土地の黄色が対比されています。ワン・トン監督はもともと画家を目指していて、美術の素養が非常に深い。だからこそ、色彩に対する感覚が鋭敏なのでしょう。黒澤監督も絵を描く人だったので、通じるものがあるのかもしれません。
台湾での公開当時、『赤い柿』は評論家や知識人からの評価は非常に高かったと聞いています。ホウ・シャオシェン監督の『悲情城市』(1989年)が、それまでタブーだった二・二八事件を描いて社会に衝撃を与え、台湾映画が本格的に自分たちの歴史と向き合う流れが生まれました。ワン・トン監督の3部作もその流れの中にあります。
リム 『悲情城市』のインパクトはそれほど大きかったのですね。
村山 ええ。ワールドプレミアの翌日の記者会見で、突然、会場の外から「わーっ」という声が聞こえてきたんです。何かと思ったら、二・二八事件の犠牲者のご遺族の方々が、位牌を抱えて駆けつけてきた。初めて公の場でこの事件が語られた瞬間でした。それまで、この事件について語ることは絶対的なタブーで、口にすれば離島に送られてしまうような時代だったのですから。
リム 映画が、社会の封印を解いたわけですね。
村山 まさに。その『悲情城市』の衝撃があったからこそ、ワン・トンのような監督も、より深く歴史を掘り下げる作品を作れるようになった。ただ、そうした歴史をテーマにした作品が、必ずしも大衆に受け入れられるわけではない部分もあって、そこが難しいところです。
特集上映「台湾巨匠傑作選2025」
『赤い柿』の日本劇場初公開に加え、近年公開されヒットした『村と爆弾』『バナナパラダイス』『無言の丘』の台湾近代史3部作のほか、ホウ・シャオシェンやツァイ・ミンリャンの傑作も上映する。
2025年7月26日(土)~ 8月29日(金)新宿K’s cinemaほか順次開催
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