樋口哲雄さん(52歳・埼玉県出身/東京都品川区在住)は、医療業務請負会社で契約社員として働いている。現在の年収は270万円台後半。妻(49歳・運送会社勤務)と、大学2年の長男(20歳)、高校2年の長女(17歳)の4人で暮らしている。

 かつては年収700万円を得る正社員として安定した生活を送っていた樋口さん。だが、48歳の時にリストラを機に“年収6割減”という現実に直面した。現在はそこまで愛着を持てない仕事に従事する彼が、それでも腐らず“前を向いて”生きるワケとは? 社会問題化しつつある「ミッドライフクライシス」(中年の危機)に直面した50代を追った、増田明利氏によるルポルタージュ『今日、50歳になった―悩み多き13人の中年たち、人生について本音を語る』(彩図社)から一部を抜粋してお届け。なお、登場人物のプライバシー保護のため、氏名は仮名としている。(全2回の2回目/最初から読む)

写真はイメージ ©getty

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49歳を前にしてリストラ

「コンピュータの世界に残りたかったけど駄目でしたね。この業界は40代が限界と言われているんです。リストラされたとき49歳直前でしたから……」

 コンピュータの世界は日進月歩で加速度的に進化する。マシンの性能、開発ツール、コンピュータ言語が短期間で様変わりする。正直なところ50代に入ったら対応できない。

「50代に入ると制作現場から離れてセールスエンジニア的なセクションや内勤の事務管理部門に異動するのが通例。とびきり優秀な人は制作部門の管理職になれるけどほとんどは他の業務に回されるんです。わたしが勤めていた会社はそうでした」

 退職してすぐに次を探し始めたが、コンピュータの世界でなんとかなったのはカルチャーセンターのパソコン講師と、シニア派遣で下請けの派遣プログラマーだけだった。

「パソコン講師は時給2000円と高額でしたけど1日4時間、週5日なので月収にしたら16万円程度。半年で辞めました。次に派遣プログラマーをやったけど20万円がいいところでしたね。50歳直前の再就職がこんなにきついとは思わなかった」

 奥さんは下の子が中学生になってから、運送会社の契約社員として営業事務を担当しており、25万円ぐらいの収入があった。樋口さんの失業手当もあったので生活が破綻するようなことはなかったが、無職の中年オヤジという現実は精神的に堪えた。今の病院での仕事は、派遣プログラマーの仕事に空白があったときにたまたまハローワークで発見したもの。

「今の仕事は1年ごとの契約社員ですが、社会保険に加入できるのは魅力だった。派遣プログラマーでは請負ということにされたので、社会保険には入れてくれなかったんですよ。だから3か月で辞めました」