「現行犯逮捕の意味はわかるか? 相手がケガをして、お前は逮捕されてるんだよ。1回、ハメてみようか?」
かつて正義感にとらわれて、駅のホームで男性に暴行を働いてしまった59歳の男性。ビンタした直後、相手は何度も「すみませんでした」と謝っていたにもかかわらず、暴行がエスカレートした理由とは? そして、逮捕後にわかった驚きの事実とは? ライターの松本祐貴氏の新刊『ルポ失踪』(星海社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全3回の3回目/最初から読む)
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「行儀の悪いオッサンやなぁ」
相手は呆然とし、何度も「すみませんでした」と謝っていた。50歳を超えた小太りのおじさんだ。
誠はさらに「気をつけぇ。こら!! 行儀の悪いオッサンやなぁ」と声を荒げた。平謝りをしてくるので、誠は男を解放し、ホームから改札を目指した。
誠が階段を降りていると、変な目線を感じた。振り返ると男が「バーカ」といいながら笑っているのが見えた。階段を駆けのぼったのは覚えている。誠はその後の記憶がスッポリと抜けるほど頭に血がのぼっていた。
気づくと「やめろ!」と何人もの警官に囲まれ、身動きができなかった。
相手が逃げるのが見えた。自分はホーム近くの上段にいて、相手は階段の踊り場にいた。
誠は手元にあったアタッシュケースを投げた。右の肩口に当たり、足元から崩れた男は、階段を十数段落ちた。出血し、よだれを垂らし、男は吐いた。吐瀉物は誠の持ち物であるカバンにかかった。
警官を振り切った誠が三度目の怒りに震えた。「オレのカバンになにしてくれてんねん」と思い、蹴って、蹴って、蹴りまくった。
蹴られた相手は「ぎゃー、人殺しーー!!」と叫んでいた。
これぐらいじゃ死なないと思いながら、さらに蹴っていたら、7~8人の警官に囲まれた。
誠は警察にも手を出し、周りの野次馬とも口ゲンカをする始末だ。大立ち回りの結果、誠は自ら先頭に立ち、駅前の交番に向かった。
交番では、カバンから荷さばきするためのカッターナイフが出てきて、警官たちは大騒ぎしていた。当時、誠は口ゲンカなどのいさかいで、警察署に何度かお世話になっていた。
「次にパトカーで警察署にうつされると、顔見知りのMさんという課長さんがいました。『お前、なにをしたんだ?』と声をかけられ、午前3時ぐらいまで話して、いつものように帰ろうとしたんです」
すると、課長さんはビシッと言った。
「帰れないよ」
