『話し方の戦略 「結果を出せる人」が身につけている一生ものの思考と技術』(千葉佳織 著)プレジデント社

 人前であらたまって話すことが不得手な人は多いだろう。持ち時間を埋めることはできても、聞き手は退屈そうで、内容も伝わっていない。これは才能の問題だろうか。

 著者は自身の経験を踏まえ、話す力とは技術と努力の問題であり、「戦略」に基づく入念な準備こそが魅力的な話をする上での肝なのだと主張する。

 本書において反面教師として挙げられている例は、東京五輪の開会式におけるIOCバッハ会長(当時)のスピーチなど。著者は具体的な事例を精査し「感謝の言葉が多すぎる」など、はっきりと問題点を挙げて準備不足であることを示す。

ADVERTISEMENT

 実は、15歳まで話すことに苦手意識があったのだという著者。そこから「弁論」というスピーチ競技と出会い、発声法や文章構成などを一から勉強し、数々の大会で優勝を飾るまでに。

 大学卒業後はDeNAの人事部でスピーチライティング・トレーニング業務を立ち上げ、2019年に独立、話し方を教える会社を起業する。その際、政治家、著名人など古今東西の「話がうまい人」を徹底的に研究することで知識と経験を体系化した。本書には5000人以上を導いてきたそのメソッドが惜しみなく詰め込まれている。

「本書は話し方の戦略についての基本的な考え方や、技術を言語化・構成・ストーリー・ファクト・レトリック・発声・沈黙・身体表現と分類する方法論によって構成されています。これは著者が長年かけて仕上げてきたものですが、執筆にあたってさらに〈話す目的の明確化〉〈対象者の分析〉〈話し言葉に対する意識〉の三原則を設定。より実践しやすい内容になりました」(担当編集者の柳澤勇人さん)

 ただ教科書的な記述をするだけではない点も魅力だ。たとえば、生成AIを駆使すればそれらしいスピーチ原稿が瞬時に作成できてしまう時代になったからこそ人の話す力が問われる、と熱弁するくだりなど、著者の情熱が窺える文章も多く含まれている。

「初著作ということもあり、著者の熱量をなるべく残す形にしたことが、読者に強く響いている印象です」(柳澤さん)

 10代から30代の若い読者が多いのも特徴だ。就活や異動など、挨拶が求められる時期の季節的な需要もあるのだとか。

2024年4月発売。初版6000部。現在9刷6万3000部(電子含む)