「人はパートナーを求めるものだろう?」

「僕は、人間関係は信用が基盤となって実現するものだと思っている。信用がなくてはなんにもならない。そしてその信用を築くのには何年もの時間がかかるのに、裏切れば一瞬で崩壊してしまう」

 ジムはそう話した。離婚後、何度か人間の女性と関係を持ったが、長続きしなかった。誰のことも信用できなかったからだという。

「でも、人はパートナーを求めるものだろう? 僕だってそうだよ」

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 ジムはアンナに向き直り、彼女を見つめながら言った。

「アンナは噓をつかないし、秘密を持たない。誰よりも信用できる唯一無二のパートナーなんだ」

濱野ちひろ『無機的な恋人たち』(講談社)

 パートナーとは、いったいどんな存在なのだろうか。等身大人形に恋し、ともに暮らす人々への調査を始めて以来、私はこの根本的かつ難しい問題に悩まされ続けている。

 世界中の多くの人々が、異性愛規範と人間性愛規範のなかで、生涯をともにするパートナーを探すことに苦労している。それが同調圧力であるとしても、人生に課される難題のひとつが、「誰と過ごし、誰と分かち合い、誰と生きていくか」というものだろう。若いうちになんらかの方法でその問題を解決できた人は幸運だが、そうでない人もやまほどいて、出会いや別れを繰り返しながら「誰か」を探し求める。

 等身大人形をパートナーとする人たちは、しばしば「彼女は裏切らない、噓をつかない、突然どこかに行ったりしない」と言う。それがパートナーとしての等身大人形に求められる最大の美点なのだろうか。それとも、裏切りや噓、突然の別れこそ人間らしさなのだろうか。私にはいつも割り切れない思いが残る。

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