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天才・連城三紀彦の短編「花虐の賦」を読まずにミステリーを語るな

『宵待草夜情』(連城三紀彦 著)――究極の徹夜本!

2018/07/29
note

 世の新刊書評欄では取り上げられない、5年前・10年前の傑作、あるいはスルーされてしまった傑作から、徹夜必至の面白本を、熱くお勧めします。

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『宵待草夜情』(連城三紀彦 著)

 数多の作家の羨望と嫉妬を集めたであろう文章力と、ミステリー作家たちを身悶えさせるような斬新かつ大胆な発想力を兼ね備えた天才、それが連城三紀彦である。時に、天は二物を与えることもあるようだ。

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宵待草夜情』は、その連城の初期短篇集のひとつで、主に明治・大正という時代と、男女の愛憎を背景にした五つの作品が収録されている。「能師の妻」と「野辺の露」は最初から加害者も被害者も明かされているが、サプライズは予想外の方向からやってくる。唯一、昭和が舞台の「未完の盛装」は、時効という使い古されたモチーフを、ミステリー史上前代未聞の発想で扱っている。一見、ミステリー読者より恋愛小説読者向きという印象がある表題作も、実は連城らしい企みが仕掛けられた佳篇だ。

 しかし、何といっても白眉は「花虐の賦」。本書のみならず、連城の全短篇の中でもベスト五には入るだろう大傑作である。

 大正時代の劇作家・絹川幹蔵が自殺した。その四十九日にあたる日、彼の愛人だった女優・川路鴇子(ときこ)も自らの命を絶つ。二人と浅からぬ縁がある俳優の片桐が、この後追い心中事件の真相に迫ってゆく物語なのだが、解決篇である七章の前半で明かされる事実だけでも驚かされるのに、後半で片桐が突き当たった真実に至っては、どこからこういう異様なアイディアが湧いて出たのかと連城の頭の中を覗いてみたくなるほどだ。

『奇想、天を動かす』とは島田荘司の小説のタイトルだが、連城三紀彦の奇想は時の流れさえも逆流させる。クレイジーな論理を流麗無比の文章で成立させる連城マジックの妙味を、この一冊で充分に堪能できる。(百)

【新装版】宵待草夜情 (ハルキ文庫)

連城三紀彦(著)

角川春樹事務所
2015年5月15日 発売

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