朝鮮中央テレビは、10月9日にメーデースタジアムで行われたマスゲームと10日に金日成広場で行われた軍事パレードの映像を放映した。いずれも金正恩氏が参加した。マスゲームは49分弱、パレードは1時間57分ほどの長さだ。金与正氏は、党や軍、政府の幹部らが居並ぶ場所にはいなかった。金与正氏を探して目をこらすと、マスゲームでは終了後に金正恩氏が来賓を見送る場面で片隅に立つ姿が、パレードでは金正恩氏が退場する際に柱の陰からちらりと姿を見せる瞬間が、それぞれ1秒ほど、顔の表情が読み取れないくらいの状態でかろうじて映っていた。

軍事パレードの映像(朝鮮中央テレビより)

「次期最高権力を巡ってライバルの関係」ジュエ氏と与正氏の露出が比例

 いったいこれは何を意味するのか。北朝鮮メディアの報道を振り返ると、ジュエ氏と与正氏の露出が比例していることがわかる。朝鮮中央テレビが今年1月1日に放映した新春祝賀会では、ジュエ氏は金正恩氏と並んで公演を観覧した。同時にテレビは男児と女児の2人を連れて、会場へと向かう金与正氏の横顔を映し出した。また同テレビが4月26日に公開した新型駆逐艦「崔賢」進水記念式の映像でも、ジュエ氏と金正恩氏が腕を組み、仲良く会話する様子を伝えると同時に、やはり2人の子供を連れて会場に向かう金与正氏の姿を映し出した。

2025年4月25日、駆逐艦「崔賢」の進水式に出席した金正恩氏とジュエ氏(朝鮮中央通信より)

 北朝鮮を逃れた朝鮮労働党の元幹部も、「情報が限られているため、断定はできない」としつつ、「ジュエと与正が次期最高権力を巡ってライバルの関係にあることは間違いない」と語る。

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 金正恩氏が権力の座に就いた理由を「(金日成主席の血筋である)白頭山血統」とした以上、次の最高権力者になる第1順位はジュエ氏だろう。金正恩氏には2人の子どもがいるとみられるが、ジュエ氏を公の席に出している以上、5歳ほど年が離れた第2子も女性とみられる。儒教の影響が色濃く残る北朝鮮で、国民を納得させるには男性が指導者の方が、都合が良い。第2子が男性なら、慌ててジュエ氏を公式の場に登場させる必要はないからだ。おそらく、第2子はある程度成長したら、北朝鮮の人々の目が届かない海外などへ留学させるだろう。