韓国の情報機関、国家情報院は17年当時、「子供3人・長男存在説」を唱えたが、最近はこの説を強く推していない。「長男がいる」という根拠が、金正恩氏の兄、金正哲氏が2011年2月、シンガポールで男児用と女児用のおもちゃを買ったという事実しかないからだ。

「次の指導者はジュエ氏だ」と側近たちに意識させる狙い

 一方、幹であるジュエ氏の権力継承の邪魔にもなりうる金与正氏は本来、「キョッカジ(枝)」として閑職に追いやられる運命にあるはずだった。だが、権力継承までの期間が短く、頼れる腹心が少ない金正恩氏は妹の力を頼った。同じく、在日朝鮮人出身の高英姫氏を母に持ち、幼少時代に冷遇されて育ったという共通体験も2人の絆を強くした。結果的に、金与正氏は兄を支える事実上のナンバー2として存在している。白頭山血統で公職に就いているのは金正恩氏と金与正氏の2人しかいない。

崔賢進水式を伝える映像には、会場に向かう金与正氏と子供2人が映っている(朝鮮中央テレビより)

 キム・ジュエ氏が公職に就くのは、大学を卒業して朝鮮労働党に入党してからになるだろう。あと10年近い歳月が必要だ。もし、それまでに金正恩氏が病や事故に倒れることがあれば、金与正氏の部下たちは「次はあなたが最高指導者になるべきだ」とささやくだろう。ボスの立身出世は自分たちの利益につながるからだ。北朝鮮メディアが意識的にキム・ジュエ氏の露出を増やしているのは、一般国民だけではなく、体制を支える側近たちに「次の指導者はジュエ氏だ」と意識させる狙いがある。

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 そうである以上、「与正氏がジュエ氏より目立つ状況」は避けたいということなのだろう。北朝鮮では今後、数年間はこの「ジュエ氏と与正氏の女の戦い」が続きそうだ。

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