制作統括の橋爪國臣は、現代の閉塞感と明治時代の混沌とした状況が重なって見えるとしつつ、「一般の人々」に焦点をあてる作品として、企画の初期段階の発想について次のように語っている。

「何かを成し遂げたわけではない、山奥に住んでいる売店のおばちゃんのような、普通の人の話が描けたらいい」(プレジデントオンライン10月4日記事)

SNSの投稿もこころなしか明るいものが多い 公式Xより

 その点、脚本のふじきみつ彦は、コントなども手掛けてきた人であり、『阿佐ヶ谷姉妹 のほほんふたり暮らし』などを観てもわかるように、「何も起こらない普通の日常」を描く名手。ふじきは2025年9月22日発売の「本がひらく」(NHKドラマ・ガイド掲載インタビュー)でこう語っている。

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「ほかの登場人物たちも、明治になって上級武士から没落したり、自分が思い描いたようにいかなかったり、みんなどこか悲しみや切なさを抱えています。でも、その苦しさを何とかしようと真面目に生きている姿が笑えたらいいなと思うんです」

借金や身売り話が次々でてくるのに、悲壮感がない理由

 実際、髙石あかり扮するヒロインの周りでは「うらめしい」ことばかりが起きる。明治元年に武士を引きずる上級武士の家に生まれ、父は働かず貧乏で、うさぎビジネスを始めたかと思いきや、すぐさまうさぎバブル崩壊で長屋暮らしに転落。父の行方不明を経て、ヒロインは小学校を辞めて織子として織物工場で働き始める。

話題をさらった「ウサギ」 公式Xより

 父が牛乳配達、母が内職をしても借金は一向に減らず、借金取りから遊郭への身売りを示唆され、婿取りを決意するが、見合いは難航。ようやく良い婿を迎えたは良いが、織物工場が経営不振に陥り、その工場の社長で幼い頃から世話になってきた親戚が病に倒れ、ヒロインが実はその親戚の実子で、養子に出されたことも見えてくる……。

 まだ3週間とは思えない波乱万丈の物語が繰り広げられているわけだが、それでも物語に悲壮感はなく、そこここに笑いが散りばめられている。