加えて、「朝ドラ」という枠の特殊性もある。

 朝ドラは他のドラマと違い、惰性や時計がわりに観る層も含めて、長年の視聴者が多い。それだけに、社会現象になるような話題作が登場すると、いわゆる「朝ドラ新規視聴者層」に対して、違和感を唱える層がいるのだ。

 地元の常連が集う店が急に注目され、観光客が押し寄せて常連の居場所がなくなるような心境にも近いだろうか。

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今田美桜が主演した『あんぱん』 公式Xより

 特に『虎に翼』はこれまで朝ドラを観たことのなかった若い世代にも注目され、そうした人達が「朝ドラなのにすごい」と驚くことに、従来の朝ドラファンは「別に特別じゃない」「どの朝ドラもみんなやってきたこと」と反論することもあった。

『虎に翼』と『あんぱん』に出た「物語よりもメッセージが前面に出ている」という批判

 さらに面白いのは、『虎に翼』を絶賛していた層は『あんぱん』も高く評価し、批判していた層は『あんぱん』も批判していた傾向が見えること。

『虎に翼』と『あんぱん』に共通する批判として、史実との整合性を重視する視聴者からは、様々な改変箇所がモデルとなった人物への敬意を欠くという指摘があった。どちらにも「物語よりもメッセージが前面に出ている」「プロパガンダ作品」という批判が上がったのも事実だ。

 全ての人の平等を求める人権派的な要素や、多くの人の共通の願いであるはずの「反戦」を掲げたドラマが、結果的に朝ドラ視聴者を分断してしまったのはなんとも皮肉な事態である。

 反響が大きくなりやすい社会派路線に朝ドラは向かうのかという流れの中、明確に異なるスタンスを打ち出しているのが、現在放送中の『ばけばけ』である。

 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)とその妻・小泉セツをモデルにしたオリジナル作品で、主演は髙石あかり。『ばけばけ』のキャッチコピーは、「この世はうらめしい。けど、すばらしい。」だ。